暖かな陽だまりは心を融かす

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暖かな陽だまりは心を融かす

 私は心の動揺を見せまいと努めて平常心を保とうとしつつ少女に声をかける。 「どうぞ、中に入って。 そろそろ、部活終わっちゃうけどそれでもいいかな。 赤井楓さんね。 赤井さんって呼んでもいいかな」 赤井さんは緊張した面持ちで答える。 「はい」 赤井さんはそう言って扉を閉めて教室に入った。 「適当にそこら辺の椅子に座ってね」 「はい」 その声は少し震えていて、きっと緊張しているんだろうなと私は感じた。 そうだよね。 見ず知らずの上級生に話しかけるのは緊張するよね。 私も初めて美術室に来たときは緊張したもん。 私はせっかくだからお茶でも出そうと思ってお茶を出す準備をする。 「お茶だすね」 「い、いえそんな、悪いです。」 赤井さんは丁寧な口調で私の申し出を断った。 でも、せっかく来てくれたのだからもてなしの一つでもしたい。 そう思って、私はしつこいと思われるかなと思いながらも赤井さんにお茶を勧める。 「そんなことないよ。私も一服したかったの。だから遠慮しなくていいのよ」 「そ、そうですか。 では、いただきます」 赤井さんは私の方をまっすぐに見つめている。 私は赤井さんの様子を見て、きっと真面目な人なんだろうなと思った。  私は椅子に座っている赤井さんに湯飲みを手渡す。 「はい、どうぞ」 「ありがとうございます」 赤井さんは両手でしっかりと湯飲みを受け取った。 私も椅子に腰かけて赤井さんに話しかける。 「赤井さんは入部希望ってことでいいのね」 「はい、そうです」 「なんで、この部活に入ろうと思ったの」 いきなりすぎたかなとも思いながら、口に出してしまったのでそのまま赤井さんの答えを待つ。 「えっと、私、小さいころから絵が好きなんです。だから、美術部に入ろうと思いました」 「中学校では何部に入ってたの。 なんか質問攻めにしてるみたいでごめんね」 私は美術部に入ろうとする赤井さんのことをもっと知りたくてついつい質問ばかりしてしまう。 同じ教室でこの先一緒に活動することになるんだから当然だよね。 「いえ、とんでもないです。 中学校では文芸部にはいってました」 「へえ、いいね。 じゃあ、今度は私が美術部について教えるね」 そして私は説明を始める。 高校総合文化祭、略して高総文があること、それに作品を出すことが主な目標だということ、文化祭で絵を展示するということ、美術部に関係あることをできるだけ詳しく教えていく。 私の話を聞いている赤井さんはどこか楽しそうで、これから始まる美術部での活動に期待しているようだった。 そんな赤井さんを見ていたら説明をしている私まで楽しくなってきて自然と笑顔になる。 部活を楽しいと思えたのはいつぶりだろう。 まだ、先輩がいたころは楽しさを感じることがあったのかもしれない。 でも、先輩が卒業して一人になってからは楽しさを感じることはほとんどなかったと思う。 楽しい、か。 いつもそんな気持ちでいられたらいいのに。 先輩が卒業してから一人の時間が長くなった。 きっと、そのことも関係していると思う。 赤井さんと一緒にいれば楽しいと思える時間が増えるかもしれない。 そうだといいな。  赤井さんがもたらした楽しさは私の凍てついていた心を融かした。 その春の陽だまりのような赤井さんのまどろみは私を包み込む。 でも、これは現状の保留。 なんの解決も、もたらさない。 そのことを知りながらも赤井さんに惹かれていく自分がいた。
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