悪魔の名、それは竹嶋葵

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悪魔の名、それは竹嶋葵

 好きには二種類ある。 友達に対する好きみたいな、人として好感を抱いていますよといった意味の好き。 そして恋人に対して抱くような恋愛感情としての好き。 私は赤井さんのことをどう思っているのかな。 どうして、赤井さんが植木君と楽し気に会話をしているだけなのにこんなにもドキドキするんだろう。 もし、私が友達として赤井さんのことを好きなら、どうしてこんなに心が乱れるの。 私の心のざわつきはきっと恋愛感情としての好き。 私、赤井さんのことを恋愛対象として見ているんだと思う。 私はこれまで誰かに対して恋愛感情を抱いたことが無い。 だからこの気持ちは私にとって初めての気持ち。 初めての恋。 それが自分と同じ性別の女の子になるなんて思いもしなかった。 おかしいよね。 女の子が女の子のことを好きになるなんて。 おかしいに決まってる。 普通、恋愛と言ったら男の子と女の子がするものでしょ。 女の子と女の子が恋愛をするなんてあまり聞いたことがない。 あったとしてもそれはきっと少数だと思うの。 もし、私が女の子のことを好きだと知られたならいったい私はどうなるんだろう。 私は周りから見て優等生という評価を貰っていると思う。 優等生として周りから向けられる期待や信頼に応えていかなきゃいけない。 信頼というものはまるでレンガのようなもので一個一個積み上げていかなきゃいけない。 でも、そのレンガは崩れるときは音を立てて一瞬で崩れ去る。 そして崩れたレンガをもう一度積み上げようとしたとしてもそのときにかかる労力は最初にレンガを積み上げようとしたときにかかったそれと比べ物にならないほど大きい。 優等生という生き物は周りからの期待や信頼に応えながら地道にレンガを積み上げていかないといけない。 レンガが崩れないように手入れをしながら息をつなぐ。 優等生は窮屈な生き物だ。 でもその代わり、優等生としての安定した生活を保障されている。 まるで籠の中の鳥みたい。 女の子の私が女の子のことを好きだなんて普通のことじゃない。 もしも、自分が女の子のことが好きだと知られたら周りはどう思うんだろう。 きっと今までのような優等生としての評価はもらえないと思う。 だって私普通じゃないんだもん。 音を立ててレンガが崩れると思う。 だったら、女の子のことを好きじゃなくなればいい。 赤井さんのことを友達として好きなればいい。 そうすればいいのに。 でも、私できるのかな。 赤井さんのこと諦められるのかな。 赤井さんは私の凍てついた心を融かしてくれた。 これまでの日常を変えてくれた。 だから、赤井さんのことを好きになったんだと思う。 なんで友達としての好きじゃなかったんだろう。 それだけがわからない。 こんなにも胸がざわついているのに、赤井さんはそんなことも知らずに植木君と話している。 胸がざわつく。  赤井さん、好きだよ。  今の私にできるのはただそう思うことだけ。 初めて知った気持ちに戸惑いながら私はこの気持ちをどうしたらいいのか戸惑い続けていた。  そのとき、耳元で悪魔のささやきが聞こえる。  だから、変化を受け入れなければよかったのに。 赤井さんのことを嫌いになればいいよ。 そうすれば問題は解決するよね。 今のうちなら誰も深く傷付かななくて済むよ。 結局、私には恋なんて無理なんだよ。 自分のことが嫌いな人が本当に誰かを好きになる。 そんなの無理だよ。 許されないんだよ。 赤井さんと出会わなければよかったのにね。  それは自分のことが嫌いな自分からの言葉だった。 私の後ろに立って私の肩をつかんでそっと耳元でささやいてくる。 私はただ黙ってその言葉を聞いている。 私はどうしたいんだろう、どうしたらいいんだろう。 ただその場に佇むことしか私にはできない。 そうだ、また保留にしよう。 そうすれば、楽になれるよね。  また、保留にするんだ。 いつまでも変わらないね。  また、自分のことが嫌いな自分がささやいてくる。 その通りだ。 私は結局変わっていない。 でも、心の中ではどこかそんな自分のことが好きなんだと思う。  そして、私はやっぱりそんな自分のことが大嫌いだ。
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