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打ち砕かれた期待はどこへ行くのか
部活が終わり、私たちは帰路へ着く。
葵先輩は住宅街がある西側へ、植木君と私は駅がある東側へと歩き出す。
私は植木君の少し後ろを歩く。
植木君の後姿を眺めながら私は植木君のことについて思いを巡らしていた。
植木君はどんな人なんだろう。
初対面の時の植木君からは真面目さを感じた。
今も真面目な感じなんだけどね。
私は植木君にどことなく惹かれている。
植木君の何に惹かれているのかは、今はまだよくわからないけれど。
今もこうして植木君の背中を見ながら歩いていると胸がざわつく。
手が届きそうで届かない距離で歩く私たちの位置関係はまるで今の私たちの関係性を表しているようで少し悲しい気持ちになる。
この距離に名前を付けるならそれは友達。
今の私たちの関係性はただの同じ部活に属しているだけの男女。
どうしたらこの距離をあと一歩だけでも近づけられるかな。
私は植木君の背中に向かって手を伸ばしてみては手を引っ込める。
やっぱり届かない。
そうだよね。
届くはずがないよね。
この距離のままじゃ届かないよ。
そんなことを考えているうちに赤信号に捕まった。
私はさりげなく植木君の隣に立つ。
なんとなく気恥ずかしくて植木君の顔を見ることができない。
一時的にとはいえ縮まった私たちの距離。
なんて話しかけたらいいかな。
私は小さく息を吸って吐いて植木君に話しかける。
「ね、ねぇ、植木君。先輩ってすごいよね。絵が上手くてさ。それにお菓子作るのも上手で。
私、先輩のこと尊敬してるんだ」
少し、早口になったかな。
私は下を向きながら植木君の返事を待つ。
植木君は私の方を向いて答える。
「そうだね。葵先輩ってすごいよね。
まさに皆から慕われる優等生って感じだね
生徒会に立候補したら絶対通りそうなのになんで生徒会とかやってないんだろう」
植木君は落ち着いた声でそう答えた。
私は思い付きで答える。
「人前に立つのは苦手なんじゃないかな」
植木君は頷いて言葉を返す。
「そうなのかもね。
でも、そういうところも好きだな」
え、好き?
私は好きという言葉に何故か引っ掛かった。
好きってどういう好き?
人として好きなのかな。
それとも異性として好きなのかな。
私、何考えてるんだろう。
そりゃ、人として好きなんだよね。
きっとそうというか、そうであってほしい。
植木君は落ち着いた口調でこう続ける。
「僕、葵先輩のこと異性として好きなんだ」
私の期待はあっけなく打ち砕かれた。
打ち砕かれた私の心の破片が私の心を傷つける。
その痛みは鼓動と共に痛みを増して私の心を血で染めた。
この痛みを私はもう知っている。
また、なんだね。
古傷が痛む。
痛む心を抱えて私はただ立ち尽くしていた。
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