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そこからは、振り向かない松山と振り向かせたいマネキンの夜間劇場が始まった。
ある日は、レザージャケットを着たロック系。
「なんか、パンチを感じてカッコイイです。」
ある日は、黒いレースのゴスロリ系。
「すごいフワフワしてますね。」
ある日は、民族衣装をモチーフしたエスニック系。
「歴史を感じせる懐かしい雰囲気ですね。」
このようにマネキンは毎日服装を変えては松山に見せてはアプローチをしてくる。
側からみればファッションショーのような事を繰り広げているように見えた。
そして3日に1回は、セクシーランジェリーを身につけて「今日はどう?」と誘ってくる。
その度に、松山は「お気持ちだけ」と断ってきた。
それでも、マネキンもめげずにアプローチを続けていた。
ある日、松山はマネキンに尋ねた。
「どうしてアプローチしてくるんですか?」
本日、ミニスカにロングブーツのギャル系のマネキンはメモ用紙に文字を書き差し出していった。
[一目惚れ。]
マネキンは、松山に一目惚れしてアプローチを続けているようだ。
そんな健気なマネキンに対して情が湧いたのか、松山は呟いた。
「もし、あなたが人間になれたら付き合うかもしれません。」
それを聞いたマネキンは俯いた。
数ヶ月後
松山は、建設業務の仕事に転職していた。
警備を辞めて以来、仕事が忙しくなりモールへ行く余裕もなく、マネキンとは会うことがなかった。
彼女が未だにいるのかも分からなくなった。
松山自身もマネキンの事を忘れかけていた頃、奇跡が起こった。
その日、松山は普段より早く仕事が終わり帰宅していた。
烏が鳴く夕暮れ時に帰るのは新鮮な気分だった。
松山は、夕食やスケジュールを考えながら帰り道に通る踏切を渡った。
渡りきった後、背後から女性の明るい声が聞こえてきた。
「松山さん!」
名前を呼ばれ驚いて振り返ると、赤いワンピースを着たマネキンが踏切の上で佇んでいた。
「えッ……!?」
松山が驚いた直後、マネキンが轟音と共に電車に轢かれた。
轢かれた衝撃で返り血と肉片が飛び散り、松山の靴にも血がついた。
その後、警察や救急車が駆けつけて、後日新聞の見出しに掲載された。
『線路内にいた女性が電車にはねられて死亡』
新聞には事故の詳細や亡くなった女性の事が書かれていた。
あの時、松山の前で轢かれたのはマネキンだった。
しかし、轢かれて亡くなったのは彼の職場の同僚女性だった。
この出来事以降、松山の目の前で女性が亡くなる事故が相次いで起こるようになった。
しかし、松山の視界に映っているのはマネキンだった。
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