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こともあろうか奴はソファーの(ひじ)を置く場所に飲みかけの缶ビールを普通に、もうそれがさも当たり前のように、なんの迷いもなく置きやがりベッドへ向かってきた。置くか?普通そこに置くか?置かねぇだろ、置いちゃならんだろ、置いちゃいけねぇだろ。 向かってくるなんて言わなくても3歩で届く距離だけど。 「倒れる、こぼれる、オイッ、何かんがえてんだあんた!」 ピッタリすぎなスキニーパンツを脱ぐのに手間取っていた僕は、(もも)までズボンをずり下したままの状態で、グラグラと揺れ続ける缶ビールに手を伸ばす。 なんて憎らしいズボンなんだ、お前がすんなり脱げないせいで僕はとんでもなく情けない格好になっている。別れ話を受け入れられずセックスに誘ってみたももの、お前とは無理、なんて言い捨てられ去っていく相手に(ひざ)をついて行かないでくれと懇願(こんがん)する醜態(しゅたい)の塊のような男、しかもパンツ丸出し状態で心底必死。 まさに今の僕。 だがしかし、今はあの缶ビールをこの手に握りしめる事が最重要事項。倒すわけには断じていかない。もうあと数ミリ、指先がアルミが僅かに触れた。 「ちょっと、すまん」 奴は僕の真横にちょこんとしゃがみ込み、パンツをペロンと半分剥いた。 ペチン、と小気味良いゴムの音。プチンと僕の堪忍袋の緒が切れる音。 「クソが、お前何してんだっ!!」 蹴ろうにもピッタリズボンが足を広げることすら許してくれない。ぶん殴ろうにも右手は僕の体重を支える仕事があり、左手は缶ビールを掴むという任務遂行中。よって僕は怒りを込め奴を睨み付ける事しか出来ずじまい。 捨ててやるからな、このクソズボン脱いだらそのまま切り刻んで捨ててやる! クソ、腹立つまじで! 「尻が、すまん、つい」 チューッとわざと音を立て露出した半ケツにキスしてやがります。冷たい空気に晒された尻に、奴の無駄に熱い唇がやけに際立ち増し増しでイラつくんです、まじです、相当です。 「ギブギブギブッ!!!!はいっとる、はいっとる、関節はいっとる!」 蟹挟(かにばさみ)で僕の尻にへばりつく奴の上半身を挟み込み、その勢いのまま床へぶっ倒しましょう。後頭部が床に強打された事を確認します。ゴトリと重い音がしましたね。ではそこから間髪入れず足緘(あしがらみ)で決めましょう。相手の片足を自分の両足で絞めればいいんです。関節ですよ?大丈夫、僕の力量で彼の膝がいかれる事はないでしょうから。 ねっ! 半ケツで、ズボンを(ひざ)まで脱いだ状態で、僕は彼のヒザ関節を締め上げました。 「ごめんなさいは?」 バンバン床を叩く獣医さん。自由が利くのは上半身のみ。でも体をひねることもできない獣医さん。少しでも動けば関節が軋むでしょ?痛いでしょ?ざまぁみやがれでしょ。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
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