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あまりに騒ぎ立てるものだから、仕方なく目をこじ開けた。彼越しの西の空、遥か遠くに月が浮いていて、空はいつの間にか白んでいる。
「夜が開けますね」
東の空に顔を背け、滲みよって来る朝日に諦めに似た感情が沸いてくる。
「はぁ?夜が?何、どうしたんすか」
声が大きい、とても。
騒がしい人だ、僕に何の用ですか。僕はあなたに用はないです。
「うるさい」
彼からも朝日からも逃げたくて仰向けの態勢をどうにかしようと身をよじるが、どうにも動けない。
「えぇっ?ごめん、うっさかったすか?つーか、良かった生きてる」
まどろみから覚醒した僕は彼を見る。僕の鼻先でほっとした様子で眉尻を下げている。
「眉毛、つながってますよ」
はて?といった様子の彼は考ているのだろうか、数秒にも渡って自らの眉間を人差し指と中指でゴシゴシと摩擦している。
「今言うことすかそれ。がははっ、やべ、ちがっ、瀕死っぽいのに余裕すね。立てます?」
僕に肩を貸そうと、何の躊躇もなく差し込まれた腕。ざっくりと雑に、それでいて力学の申し子のごとく力加減が絶妙。僕は何の負荷も感じずにひょいと立ち上がった。
「多分立てます、どうも。もう結構です寝ていただけなので。手、放して頂けますか、帰りますので」
フリをするのは得意だ。それこそが僕が生き残る術。こんなにも朝日と一心同体の男と、これ以上一緒にはいられない。
刻々とにじり出てくる太陽、まるでこの男が太陽を引き連れて現れたようだ。チリチリと僕の隅っこが焼けていく。
「うす、どぞ」
スッと僕の脇から腕を抜き取ると僕の目前へ立ちはだかる。我が子の初めての一歩を見守る親のように、両手を広げてスタンバっています。何、僕が倒れ込むとでも?
ありえない。
動作一つ一つが豪快、声も動きも機敏。あぁ、あれだ。大型犬が主人のまわりを飛び跳ねているような感じ。
僕は主人では断じてないけれど。
とにかく言える事は彼がとても人目に付くって事。
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