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「邪魔ですが」 「へ?あ、そか、これでい?」 そのまま態勢で横へ一歩ずれる彼。いや、何か違うと思うけど。 支えを失った僕の右足からは、骨の内側からズンズンという痛みが響いてきて立っていることに苛立ちを覚えるほど。 「それでは失礼します」 一歩を踏み出す、今度はすっ転ばないよう慎重に、慎重に。それでいて素早くこの場から立ち去りたい。 「あのさ、無理じゃん?」 彼の横をようやく過ぎ去った時、彼は大股で一歩後ろへ下がった。僕が一歩先に進めばまた一歩。 「寝てんの起こして悪かったす。つーことでちょっと失礼」 「歩けます」 「はいはい、そーですね」 「人目も気になるんですが」 「あー、そすね。でもさぁあんた肩貸しても振りほどきそうだし。おんぶも厳しいだろ?抱っこ?あー抱っこが良かった?わりぃ」 「……」 「痛っ!このっ落とすぞこんにゃろ」 「……」 よく分からないが、なんとなく彼にイラついたので肋骨辺りにヒジ鉄を。 「よいしょっと、じゃ病院行こうか」 落とすと言い放っただけはある。僕は大きな荷物のように助手席へ放りこまれた。 彼はこともあろうに母犬が我が子の首根っこを咥えて持ち運ぶように、僕を抱えて車まで移動した。俗にいうところのお姫様抱っこ的なそれで。 首根っこ掴まれて引きずられた方がよっぽどしょうにあっている。 「結構です」 「じゃ救急車呼びましょか?」 「結構です」 「じゃさ、送るから家どこよ」 「結構です」 「はぁ…、あのさ、あんたさ、自分の(つら)見てみ?すげぇ事になってんよ?服も汚れまくってっし、誰かに何かされたよな確実。それにそれ歩けねぇじゃん。何があったか知らねぇすけど警察行くか?」 窓に映る僕を見た。あぁ納得、確かに僕の顔は酷い。口元から右頬まで血が固まって崩れかけの油絵のようだ。加えて、前日の雨がアスファルトを濡らしていたらしい。そこへ放りだされたものだから、衣服は野戦後の兵士並にドロドロだ。
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