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噛まれたら腕って反射的に引っ込めるものだ。何故躊躇せず僕を捕まえる。何故。
痛くなかったのかと思い、更に腕に噛みつく。
ギャースカ痛いと言うのだ痛いのだろう。この男にも痛覚はあるようだ、人より随分鈍そうではあるが。そうなると、どの程度噛みつくと痛がって、どの程度なら平気なのか、そこが気になってくる。
強制移送中、僕は試験的に彼の腕や頬に順に噛みつく。体は固そうなのでやめておく。
乳首は噛んだけど。
「やめんか馬鹿たれが。ったく、とんでもねぇ野良だなお前。ほら、痛くしねぇから座んな。縫ってやっから」
何急に優しい感じ醸し出してんの。だまされないよ僕。
「意味がわかりません」
間違いないここは病院だ。背後に白いスチール製の薬品棚。ステンレスの寝台。奥の部屋から持ち出してきたのは注射器だよね。なにそれ、僕に打つ気?雰囲気からしてドラッグではないのは分かるけど。いや、それでも別にかまわないけど。
「がはははっ、心配するな、俺は医者だ、獣医だがな。お前は明らかに野性のネコ科動物だ。懐かねぇ、ひっかく、噛む、唸る、すぐ逃げようとする。ほらな俺が治療しても差異はねぇ。まぁ、どうしても俺に縫われるのが嫌なら眠らせて人間用の病院につれていくが。嫌なんだろ?病院」
病院が嫌?誰が?僕が?
いや、僕、とくに嫌いとかない。好きとかもないけど。
「··············」
「その舌じゃ何も食えねぇぞ。安心しろって、麻酔の量だけ間違わなければ問題ねぇよ。縫えば2週間で元通りだ。その切れ方だと今よりかなり腫れてまともに喋れもしなくなるぞ、いいのか?」
確かに。
すでに腫れ上がった舌は違和感しかない。邪魔くさい。うっとうしい。相当不快。
口の中で腫れ上がった舌はもはや舌とはいえない。固い異物そのもの。いや、本当に中に何が入ってるの?悪性腫瘍の塊だろってほどに固い。
日頃気にも止めなかったが、いかに上手に収まっていたのかと人体構造に、関心する。
血の味もうんざりだ。
「·········じゃ、やる」
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