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年をとり白髪とシワが増え、その瞳は幾分か垂れてきた瞼がかかってはいるが、凛とした厳しさを含んだ優しい眼差しは変わらない。 「はい、随分とお世話になってます、増田さんには感謝してます」 父が死に、母も弟も行方知れず、この人だけが僕の元へ面会に来てくれていた。僕をどしても放っておけないといつも言いながら。3親等以内でなければ面会はできない規則。保護司は別だ。 増田さんは僕に会うために保護司になってくれていた。彼が差し入れてくれるオレンジジュースは凄く甘くて美味かった。 「いやいや、やめなさい堅苦しい。ほら、顔を見れたらもう安心だ。饅頭でも食べるかい?仕事の事は真面目にやってくれてるとマスターから報告済みだ。頑張ってるな、偉いぞ。それでだ、1年経ったことだしそろそろ話してくれはしないか?事件の事。君はもう十分に罰を受けたし更生した。けれどもな、春の苦しさやモヤモヤが晴れたように私は思えない。書類上君に問題はない、むしろ模範的だ。だが、春が笑ったところを私は一度も見たことがない。私に話せる事があるなら話して欲しい。楽になるよきっと」 諭すような柔らかい口調、言葉、表情。親身に寄り添ってくれる暖かい人。 何を話せばいいのか、何を話せば正解なのか考える。だって増田さんをがっかりさせたくない。僕が何を話せば増田さんは喜んでくれるのだろうか。 ――分からない。 「はい、ありがとうございます。いつも気にしてもらえて嬉しいです。でも、話せる事は全部話しました。増田さんにも院の先生にも全部話ました。それに僕、笑ってますよ?ほらいつも。増田さんに会えると僕は嬉しいから」 そうかそうかと言いながら、僕の肩を撫でる手。笑ってるけど寂しそうな目。 僕があの日、ヒトを殺したあの日、何があったのか、本当に衝動的な犯行だったのか。何度も何度も何度もいろんな専門家の人が僕に聞いたけど僕の答えは一貫して1つ。 “理由はない” それ以外ない。 理由はないと裁判所の人も決めた。 だから理由はない。 それでいいだろ。 「あなた!あなた!虎次郎が、虎が!」 パタパタとリビングの方から近づいてくる足音。おや、何だろうかと増田さんが襖を開けると同時に奥さんの喜美代さんの姿が現れた。 彼女は僕に謝りながら、早く早くと僕達の手を引いて仏間から連れ出した。
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