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「まじか、お前…こんにゃろ…こんちくしょうだ!クソ可愛いこと言ってんじゃねぇ!頭が沸騰するかと思ったぞ、ここが、こぉ、ぐぅってなってぎゅーーっとして心臓バクバクしてんぞ殺す気か!鷲掴みだ、俺のハート鷲掴みだぞ、やべぇ、やべぇ、やべぇっ!めちゃんこ嬉しい、春馬てめぇまじで好きだ、俺はお前にベタ惚れだぞちきしょーーー!」
ダメだこの人。興奮すると加減が全くできなくなるらしい。
痛すぎる。
締め上げられた二の腕がねじれてるよねこれ。なけなしの僕の筋肉に力を込め、少しでもと減圧を試みる。イメージ内ではバキッと膨らんだ筋肉がコイツを吹き飛ばしているのだが。
現実には、怒り狂ったオスゴリラに棒切れのような人間が両腕で締め潰されています。
痛すぎる。
「おい、落ち着いて下さい」
届かない。
「おい、おいって。落ち着いて下さいっ!」
届く気がしない。
全壊の抱擁に加え、感極まったとばかりの頬ずり。強度はタワシ。この人の伸びかけのヒゲはタワシです。皮膚に刺さったらピンセットで抜かないと無理だよ。
痛すぎる。
「少し落ち着け、っ、つってんだろがっ」
春馬ぁ~と、小花を散らし続ける彼を黙らせる為、僕は渾身の頭突きをかます。もう無理、人体構造上それ以上無理って程首を反らせ、可能な限り助走をつける。
「痛ってぇ、っておい、大丈夫かよ、春馬!いきなり何してんだ、おい大丈夫かよ」
彼の"痛ってぇ"は蹴躓いた小石に文句を垂れる程度の"痛ってぇ"。対する僕はどうだ。無防備に……何だろう、痛すぎて思いつかない。
「うっさい、まじ少し黙れ」
棒立ち状態でデコを抑え、目を閉じひたすら痛みが引くのを待つ僕。グワングワンします。何でかな、無性にイラつくんですが。痛いと声に出せばこのクソったれな石頭に負けた気がする。ぜってぇ言うもんか。
「なっ!何でだし、俺なんかした!?え、ちょちょ何で怒ってんだ。え、デコ痛ぇの?何、大丈夫なん?おい、春馬、大丈夫なん?」
うっろうろしやがって。。。よし、違う事考えよう。この人のペースに流されるからダメなんだ。
そうだ、蜘蛛、蜘蛛蜘蛛。僕の興味を引いてやまない蜘蛛。あいつらのセックスどんなだと思う?オスが上に乗っかってヘコヘコやるもんだと思うよね。
違うんだと。
オスはまず単体でマスをかく。何をネタにマスかいてるのかなんか知らない。けどしっかり射精してそれ持ってメスに夜這いかけに行く。ベッドでスヤスヤ寝てるメスに近づいて問答無用、前戯皆無で自分の精子をメスの生殖器にねじ込むんだと。
これ、セックスじゃないよね。
蜘蛛は異性と触れ合う事をやめたんだね。
僕はこの話を蝶の蛹に聞いたんだけど。
僕は、勝手に想像した。蜘蛛は異性間のセックスが苦痛だったんだ。メスとのセックスが苦痛に感じる蜘蛛の個体数が進化の優位にたった。
メスとのセックスが苦痛なゲイな蜘蛛の遺伝子が、蜘蛛の総数の絶対数を上回り、メスに挿入することなく子孫を残す方法を編み出した蜘蛛の進化。
考えてみてよ。
女性もそうだよね。精子だけ提供してもらって子供を産む時代でしょ?
男性は精子提供だけすれば子孫は残せる。
ほら、原理的には蜘蛛と一緒じゃん。
人は小さい生き物の後に続いて、小さい生き物を手本にして進化していってんじゃないのかな。
メスに無理やり精子をねじ込むオスの姿、この目で一度でいいから見てみたい。
見てみたい。
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