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「嫌だね、もう忘れたし。だからもう1回くーれ」
僕も好きだ、凄く君が好き。
どこからこの気持ちはやってきたんだろう。
こんなものがもともと僕の中にあったとは思えない。こんなに脆そうで細くいたいげな感情。触れるとそれは恐ろしく固く、幾重にも幾重にも重なっていて。とてもじゃないがこの塊を紐解くことなどできやしない。
これは強靭でいて、しなやかで美しい銀色の蜘蛛の糸だ。
糸は鋼よりも固く波のように柔らかだ。糸は僕の心臓を知らぬ間に蚕の繭にしてしまっていた。心臓が透けて見えていた時はまだよかった。気が付けばどれだけ目を凝らしてもここに心臓があると認識することはできなくなっていた。
幾重にも幾重にも重なり、限界なく思いのままに糸は僕の心臓を絡めとった。
さて、この繭から生まれるのは蝶か蛾か。それとも八本足の蜘蛛だろうか。
繭の中、今も脈打つ僕の心臓。
君が欲しいと止まることなく鼓動を続ける。
この美しい僕の繭、君の右手でひねり潰してもらおうか。
銀の糸の隙間を縫って何色の血肉が絞り出てくるか楽しみだね。
「ったく。……好きだ、春馬」
「僕も、好き、何より君が好き、愛してる」
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