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父親は死んだ。 自殺した。 高校で教頭を務めていた父は港へ車ごとダイブして死んだ。僕の非行を元凶に2日も経たず近隣地域全域でこの家の中学生の息子が人を殺したと知れ渡った。それも突然理由もなく人を殺したと。当然だ、警察もマスコミも家の屋根にフラグを何百本も立てて往復するのだから。 大好きだった父。 長年勤めた学校から損害賠償を請求された。学校の名誉と社会的信用を著しく傷つけたんだって。真面目一本で教職に誇りを持っていた父。酒を飲むとすぐに顔が赤くなって陽気になった父。失敗したら初めからやり直せばいい、何度だってやり直せ。その度お前達は強く大きくなる。父は僕と弟の頭を撫でながらそう言った。 四方八方へ崩れて散らばった積み木を前に大声で泣く僕。 倒してしまった弟が涙を堪え俯いて唇を噛み締めている。 何度だってやり直せ。積み上げる事は時間もかかるし根気もいる。なのに倒れるのは一瞬だ。でもな、腹いっぱい泣いたらまた積み上げればいい。また倒れたらたま積むんだ。高い高いお前達だけの積み木の塔が完成するまで。できるよ、春馬と冬馬なら必ず。 父の声は穏やかで力強かった。 僕達は積み木が空っぽになるまで高く積み上げた。 嬉しかった。この積み木の塔は世界一だと誇らしかった。 今も思い出せる。ニカっと笑った弟の顔、誇らしかったんだ。 その双子の弟は、母と共にずっと行方知れず。 僕の狂気は大事な父を殺した。
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