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第四話 本当の隠しごと
「これ、返します」
翌日の部活の時間に差し出したカードを花島先生は「あら、意外と早かったね」と嬉しそうに受け取った。
「全部わかって持たせたんでしょ? それに呪文みたいに唱えさせてさ」
花島先生は「そんな怖い顔しなさんな」と言って、あひるのように尖らせた私の唇をつまんで笑った。
「丸く収まったんなら結果オーライでしょ? それに、まだ持っていてもいいよ、それ」
「要らない。もう……なくても平気だから」
カードを持っていなくても、目を閉じればすぐに思い出せるから。淡いピンクの色の海を思い浮かべて『大好き』と10回唱えられるから。
それにちゃんともらえたから。欲しかった『大好き』という言葉を。
「そっか。それなら遠慮なく」
そう言ってカードをケースに戻す先生に、私は思い切って尋ねることにした。先生の占いは本当はインチキなんじゃないかって。
「どんな色のカードを選んだとしても、最終的にはピンクのカードを渡したんでしょ?」
そうやって訊いたら、先生は嬉しそうに「ご明察~」と笑った。
だけど、すぐに真顔になって「ただしインチキじゃないよ」とつけ加えた。
「明佳が言うとおり、たとえどんな色を選ぼうとピンクのカードは渡してた。ただ明佳が選んだ色に関する話は本物だよ。色彩心理っていうのがあって、色は人の隠された心を表す力があるんだよ。私はそれを引き出しただけ。ピンクにはさ、心を落ち着かせる効果があるんだよ。刑務所の壁色にも使われているところがあるくらいなんだから」
「へえ。先生って色のこと、詳しいね。それって美術の学校とかで習うの?」
「色の勉強はしたよ、たくさんね。本もいっぱいあるし、美大とかに行かなくったって、今からでも勉強はできるよ。明佳はカラーリストなんか、向いてるんじゃないかな? ほら、クリエイティブ系だし」
「先生はカラーリストなの?」
「資格は持ってるけど、カラーリストはやってない」
「カラーリストはって……ほかになにかやってるってこと?」
花島先生は非常勤の講師。だから先生だけをやらなくてもいいらしい。
先生は「まあね」と含んだように笑うと、財布から一枚のカードを取り出して、私に差し出した。
いろんな色で水玉模様が描かれているカラフルでポップなカードには『色の魔術師 鏡月瑠衣』という名前が黒いインクで印刷されている。
花島先生の名前はひらがなで『るい』。
だからこれは先生の名刺。
だけど鏡月って。花島となんにも関係ないじゃん。
私は目を真ん丸にして先生を見た。
こんな隠し事をしているなんて思ってもみなかった先生は、いたずらな笑みを唇に乗せると、人差し指をあてがって「しぃっ」というポーズをとった。
「色の魔法が使えることは、みんなには内緒だよ」
そう言って、花島先生こと色の魔術師、鏡月瑠衣は片目をつぶって、かわいくウィンクしてみせた。
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