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 義母が家に来た出来事から数週間が経った。相変わらず食欲不振と睡眠不足は続いている。  それに加え最近は起き上がることさえ辛くなってきている。骨が全て鉛に変わってしまったように身体が重い。引力が通常の3倍くらいに感じる。  今日の夕飯時、旦那に子育てについて、体調不良について相談をした。うんうんとよく頷いて私の話を聞いてくれた。  彼は優しい。付き合うきっかけになったのは高校の同窓会だった。クラスが一緒でも接点が全くと言っていいほどなかった私たち。  だけど話してみると意外と馬が合って、彼といると心地が良かった。自分自身が自然体でいられる。彼はそういう存在だ。 「初めての子どもだし、慣れないことが多くても仕方ないさ」 「でも、私、うまく育児できてる気がしないよ……家事はおろそかになってるし……私なんかが母親になるべきじゃなかったんだ……」  俯いて視界に入るのは、ガサガサに荒れている手と太ももだけだ。旦那は諭すように言葉を紡ぐ。 「そんなネガティブになるなよ。もっとポジティブに考えよう」  私はかろうじて、うんと頷いた。旦那は決して子育てをしないわけじゃない。仕事が休みの日は面倒を見てくれる。  でも平日は私が面倒を見なきゃいけない。お義母さんに助けを求めようとすれば、甘えだとか、だらしないとか言われるに違いない。  以前、「私は三週間で仕事に復帰して子育てしたのよ」と自慢気に話していた。そんな人が嫁を助けるとは思えない。  両親は飛行機で二時間かかる遠方に住んでいるので、なかなかこちらに来ることはできない。つまり、旦那が仕事を頑張っているように、私は育児を頑張るしかないのだ。  今のままでは母親失格だ。旦那は咲姫にガラガラを振って遊んでいる。私の心とは裏腹に、キャッキャッという嬉しそうな笑い声が聞こえてきた。  私はその場から動かず二人の後ろで静かに涙を流した。最近こういうことが増えた気がする。  心が透明な重石に押し潰される。その反動で自然と涙が頬を伝うのだ。あぁ、私は弱い私が嫌い。  強くならならきゃ、いけない。
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