丸吉とマンタ地蔵

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丸吉とマンタ地蔵 越中富山の皆神山に大雨が降り、川が氾濫した翌日、丸吉は水が引いた川縁でお地蔵さまを拾いました。 荷車で家に持ち帰り、汚れを落として藁傘を被せ、松の根元に置きました。それからというもの嫁を取り子供も生まれ、また奉公先の薬問屋も繁盛して、幸せな暮らしをしておりました。 ある日、富山のお殿様はと越の国のお殿様から長寿の薬はないかと聞かれ、大変困ってしまいました。そんな薬は聞いたことがありません。むやみに断れば富山の人々はとても困ってしまいます。それというのも、越の国にはお米がたくさん実り、薬と交換をしていたからです。 お殿様は人々に長寿の薬を探すよう頼みました。名主が集まり、薬売りを呼んで聞きました。薬売りは遠くの国まで出掛けており、色々な事を知っています。しかし誰も長寿の薬のことは分かりませんでした。そこへ、一番遠くの国まで行っている丸吉が行商から帰ってきました。 丸吉はこう答えました。「長寿の薬があるかどうかは分かりませんが、南の国には百歳を過ぎた人がたくさん住む島があると聞いています」。 早速、お殿様は丸吉にその島を見つけ長寿の薬を探してくるよう命じました。 丸吉はいつものようにお地蔵様にお祈りをして、たくさんの薬を行李に詰めた大きな風呂敷を担ぎ、すぐに村を出発しました。 薬と食料を交換しながら何日も歩いた末、ようやく薩摩の国まで来ました。ここはとても暖かで食べ物も美味しく、お年寄りも多く住んでいるのですが、肝心の長寿の島はありませんでした。もっと南に琉球という国があり、そこにはあるかもしれないと教えられました。 丸吉は琉球に行く船に乗せてもらいました。途中立寄った島々には百歳に近いお年寄りがいて、これなら見つかるはずだと思いました。琉球の言葉も少し習いました。 船に乗ってから七日、青い海に囲まれた琉球王国に着きました。しかし、ここでも長寿の島は見つけられませんでした。持ってきた薬も少なくなり、もうこれ以上探すことが無理ではと思い始めました。 そんな時、まだ先の南の海に八重山という島々があると聞きました。丸吉は最後の望みをかけました。船に乗ることさらに三日。竹富島という小さな島にたどり着きました。 珊瑚礁で囲まれた島はまるでお伽の国のようで、その美しさにしばらく声が出ませんでした。集落には百歳以上のお年寄りが多く住んでおり、みんな元気に働いておりました。とうとう長寿の島にたどり着いたのです。 親切な長老からこの草が長寿の薬だと教えられて、丸吉は一生懸命その草を集め始めました。百歳を超える島人はそんな丸吉をにこにこしながら見ていました。丸吉が尋ねてみると、その島人は自分は一度もその草を食べたことがないと言うのです。なんと、みんながこの草を食べているわけではなかったのです。 もう誰に聞いても長寿の薬のことは分かりませんでした。途方に暮れた丸吉は岸辺にある神の岩のところで、涙があふれてきました。ようやく泣きやみ、立ち上がろうとしたとき誤って足を滑らせ海に落ちてしました。助けを呼ぼうにも声が出ません。このままでは溺れてしまいます。その時です。突然大きな波が押し寄せ丸吉を砂浜まで運んでくれました。 息を吹き返した丸吉は、怪我をしている大きな魚をみつけました。助けてくれたあの波はきっとこの魚に違いない。丸吉は大急ぎでヨモギという草を集め傷口にぬってあげました。血はすぐに止まりました。すると、魚は「ありがとう」と言ったのです。丸吉の驚きようといったら!話す魚など聞いたことがありません。「な、な~んいう。おらこそありがとうね」。 魚と話し始めた丸吉は富山の国を出てからのことを話し、また涙がこみあげてきました。魚はそんな丸吉に「島の真ん中にある井戸の水を飲んでごらんなさい」と言いました。それはとても美味しい水でした。「丸吉さんあなたは長寿の薬を見つけていますよ」。まさかこの水がと思っていると「そう、その水も大切な一つです」。そしてあなたが息を吹き返えした空気もです」。人はこの二つなしでは生きていけないのです。 そして、もう一つ、この島人のようにいつも笑顔で楽しく働くことが長寿の薬なのです。 今度はとてもうれしい涙がでてきました。 丸吉はお礼に何か薬をあげようと行李を見ましたがもうなにもありませでした。その様子を見た魚は「丸吉さん、私にその大きな風呂敷をくれないか」。と言いました。「こんなもの何するん」 「私は海の中をもっと楽しく泳いでみたい。それを翼にしようと思う」。「そうけぇ、こんなもので良かったら貰ってくれ」 こうして、丸吉は魚と別れ、すっかり寒くなった富山の国に帰っていきました。越の国のお殿様も丸吉の話を聞きとても喜んでくれました。そして、驚いたことは家のお地蔵様が雨降りの日に川に戻っていく姿を嫁が見た事でした。 後日談ですが、風呂敷をもらった魚は、大きな羽をつけたように悠々と海を泳ぎ、島人から神様の使いとして大切にされたそうです。 そして、今でもその姿は世界中で見られ、欧米ではマントを着けた魚としてMantaと呼ばれているそうです。
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