隠し事の隠し事

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私には隠し事がある。 かれこれ10年近くになるだろうか、決してバレてはいない。 だって私は最高に幸せだから。 慶太と出会ったのは10年前、一目惚れだった。営業部エースの慶太は誰から見てもかっこよくて一目惚れした女子社員は数知れず。 その大勢の中に私もいた。 そして、私こそがそれらを蹴落とし頂点を勝ち取った勝者、妻なのだ。 どうしよう、ニヤニヤが止まらない。結婚して4年、まだまだニヤケ続けてしまう私こそ本物の幸せ者だ。 でも、私は偽物でもある。だって未だに私は慶太に素で接した事はないから。本当のガサツな自分を押し殺し、隠し続けている。でも全く苦ではない。それを上回る喜びが私にはあるから。慶太の理想や好み、変化をこの10年間ずっとリサーチし続け全て把握し彼好みの控えめな可愛らしい妻を作り上げている。 辛いものが大好きな彼に会わせて激辛カレーだって平気な顔して食べる。 食の好みが合うってやっぱ良いよな!と慶太ははしゃぎ眩し過ぎる笑顔で嬉しそうに言うと私はとろけて無くなってしまいそうな感覚に陥る。 その顔面が、その声が、その腕が、私を昇天させてしまう。 手入れの面倒な巻き髪だって、化粧を落としてから再び素っぴん風ナチュラルメイクを施してからベッドに入る事だって、小学生の頃近所のバカ犬に右足を噛まれて以来大嫌いになった犬だって、慶太が可愛いと言うから我慢している。 その我慢だって彼の隣にいるだけで我慢と呼ぶ程のものではないと錯覚する。彼を怒らせる様な事がないから喧嘩はしないが、夫婦喧嘩がない事を逆に不安に思った慶太が1度だけ吹っ掛けてきた事がある。 その時は唐突で私も一瞬焦ったが準備はしてあった。色々な角度からのシミュレーションはしてある。 最初は不貞腐れながら小さく可愛く反抗し暫くしてから声小さめに頬を赤らめながらごめんなさいと謝る。慶太の怒った顔は徐々にいつもの完璧すぎる美顔へと戻り私を引き寄せ抱きしめる。 これで慶太の想像する夫婦喧嘩も上手くいった。 あぁ、なんて幸せな日々。 キングサイズのベッドに3歳になった娘の優衣を挟み毎日3人で眠る。 夕食の片付けをし優衣の保育園の支度を整え、諸々準備をしてから寝室に向かうと天使の様な娘の寝顔のすぐ横でそれを上回るこの世のものとは思えない程の完璧な慶太の寝顔に体が熱くなり毎回痛いぐらいの衝撃を感じて興奮した心を静に落ち着かせながら優衣の隣に横になる。一生眺めていられる彼の横顔を見つめ、瞼を閉じてもまだ残る余韻に浸りながら幸せ過ぎる眠りへと落ちていく。 「ガァァー、、、スゥー、、グァァー」 「んっ、、なんのおと~?」 「あれっ、優衣ちゃん起きちゃったか」 「ぱぱーなんのおと?うるさいよ~」 「ママのいつものイビキだな、パパの方においで」 「うん」 「優衣、今日は疲れちゃってママのイビキが出ちゃったのかもな~」 「、、、あしたままにきいてみるね」 「うぅん、ママには言わなくていいんだよ。ほら見てごらん、ぐっすり幸せそうに眠ってるだろ。優衣とパパの秘密にしよう」 「うん、わかった!ひみつだね」 〔完〕
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