10人が本棚に入れています
本棚に追加
10.ゆったりとした歩み
夜の自宅にて。制服の上にエプロンという姿の京香は、料理中。
「健介くんは、私のお父様から、どんなことを頼まれたの?」
「京香ちゃんを、浮き世離れした深窓の令嬢から、一般庶民の方に戻してくれってさ」
「もう。お父様ったら」
一見立派な大きな会社だって、あっという間に凋落したりするものだ。京香の父が言っていたことを、健介は思い出していた。
そんな時が訪れてもいいようにと、京香を健介の元に預けたのだそうな。
『現に、日本の家電業界なんて軒並み凋落しているだろ? 明日は我が身だよ』
その時どうする? どうやって生きていく? つまりはそういうこと。
「健介くん。ご飯、食べましょう」
「はーい」
何も焦ることはないなと、健介は思った。
今はただ、ゆったりと歩んで行こう。
二人の幸せな時は、再び動き始めたばかりなのだから。
最初のコメントを投稿しよう!