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3.父と、その親友
――健介が高校に入学してから、数日後のこと。
珍しく、親父が家に帰ってきた。
母親は、健介が幼少の頃に他界しており、親父と息子の父子家庭だった。
そして、親父が仕事の虫で、滅多に帰ってこないとなれば、実質的に一人暮らし状態。
「おかえり」
「ただいま。……おーう。久しぶりだなぁ健介。元気にしてっか?」
「うん。元気だよ。……って。和泉おじさん?」
親父の後ろに、見知った顔。
「やあ健介くん。久しぶりだね」
「ご無沙汰してます」
和泉おじさんは、親父の親友だった。
そして、親父が勤めている会社……和泉コーポレーションの、経営者でもあった。
和泉コーポレーションとは、日本でも有数の規模を誇る、家電メーカーだ。
そんなところで親父は、長年にわたり、製品開発の陣頭指揮をとっていた。
今を遡ること十数年前。健介がまだ、産まれていない頃のこと。
今では想像もつかないことだが、和泉コーポレーションは、深刻な経営難に直面していた。
そんな折、親父は一開発者として、会社に入社したのだった。
それから様々な、今日においてはスタンダードと評されるような、革新的な製品を多数開発し、会社にものすごく貢献した。
更に。和泉おじさんは、親父と同時期に経営に参画した。その卓越した手腕も合わさって、破綻寸前だった経営は見事に盛り返した。
学生時代からの付き合いである二人は、文字通り盟友と呼び合えるような仲だった。
社会人になってからも、息の合うタッグというわけだった。
そんな二人が、なにやら健介に相談したいことがあるとかで、やってきたのだった。
「なあ健介くん。京香のことを覚えているかい?」
「京香ちゃんですか? もちろん覚えていますよ。……とはいっても、最近全然会っていませんけど。俺、忘れられちゃったかもですね」
京香は、和泉おじさんの娘だ。
小さい頃は、よく一緒に遊んだものだが。二人が小学校の高学年になる辺りで、突然海外に留学してしまった。
その後ずっと会っていないけど、元気かなと、健介は時々思ったものだ。
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