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5.禁止禁止!
そんなこんなで一悶着ありつつ、今に至った。
この家の玄関先で、二人が久し振りの再会を果たしたとき、京香は感極まって、健介に抱きついていた。
その後すぐに、はしたないことをしてしまいましたと、赤面していたけれど。
「健介様」
「ストップ。その、様ってつけるの、やめよ?」
京香は戸惑った。そんなことを言われるとは、思っていなかったから。
「えっと、そのね。俺、様づけされるような偉い身分でもないし。大した人物でもないんだよ」
「お嫌でしたか。……それでは、何とお呼びすればよろしいですか?」
長く、ふわふわの黒髪。
ちょっと小柄で、ほっそりとした体つき。
無骨でがさつな自分とはまるで違う。まさに、女の子だ。
(あ、やべえ)
成長した京香を見て、健介は改めて思ったものだ。
(京香ちゃん、すっげぇ可愛い……)
こんな可憐な子が、自分を慕ってくれている。
(そんなこと、あり得ないだろ?)
背後で。バラエティ番組にありがちな、ドッキリの撮影でしたーとか言われたとしても、即座に納得できそうだ。
ですよねー。まぁそんなもんだよねー。どうせそんなことだろうと思っていましたよー。と。
ところが、そうではなかった。
これは、ガチなやつだ。
「健介様?」
「あ、ああ。なんでもないよ。……じゃあさ。俺のこと、くん付けで呼んでみてよ」
「はい」
「早速言ってみて?」
「健介……くん……」
京香は、何だかとても申し訳なさそう。
「よ、呼びづらいです」
「そう? 昔はそう呼んでいたじゃない」
「ですが……」
「そうそう。それも禁止」
「え?」
「敬語、やめよ?」
「そ……そんな」
京香はますます困り果ててしまった。
こんなときどうすればいいか、誰からも教わっていないと、そんな風に思って、もじもじしていた。
(……困り顔も、可愛いな)
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