10人が本棚に入れています
本棚に追加
6.追憶と告白
小さな頃の思い出。
お外でも、家の中でも、二人でいっぱい遊んだ。
「健介くん。おままごとしよ?」
「いいよー」
それは女の子の遊びだったけど、健介にとっては当たり前のものだった。
ここは保育園じゃないから、邪魔が入ることもない。茶化すような、無粋な奴もいない。すべて、自由だった。
「おっきくなったらね。私を、健介くんのお嫁さんにして?」
「いいよ~」
無邪気な時はやがて、過ぎ去っていった。
そして、今に至るのだ。
――健介の部屋にて、二人はお話中。
「私。健介様……。あ、いいえ、健介くん……に、相応しい人になりたくて。それで、お父様に我が侭を言って、海外留学をさせてもらったんです」
「そうだったんだ」
思い立ったら行動をする子だと、健介は思った。
もちろん京香は、健介と会えなくなって、とても寂しかった。
留学先は、厳しい学校だったけれど、くじけず、一生懸命に勉強をした。
それから、何年もの時が過ぎていった。
「海外出張のついでに、学校に来てくださいましたお父様に、寂しくないか? って、聞かれて。……私、堪えられなくなってしまって。情けない事ですが」
「それで、帰ってくることにしたんだ」
「はい。……それに私。ようやく気付いたんです。本当に、何も考えていなかったんだということに」
今まで、一体何をやってきたのだろう? 京香は後悔していた。
好きな人にきちんと思いを告げる事も出来ずに、逃げるように海外へと旅立ってしまった。
「健介くんの気持ちも、何も。……健介くんにだって、好きな人がいるかもしれないのに。我が侭ばかり言って、わけがわからなくなっていました」
「そうかな? 俺はラッキーだったけどね」
「ラッキー、ですか?」
「そうそう。小さい頃によく遊んだ女の子がね。こうして、すっごく可愛くなって帰って来て。その上俺の事を慕ってくれてるなんてさ。最高じゃん。親父と和泉おじさんから事情を聞いたときさ、それ、なんてベタベタなシチュエーションっていうのか。ギャルゲーかよって思ったよ」
「……」
「でもね、京香ちゃん。俺、没個性を絵に描いたような男だよ? 何か特技があるわけじゃない。優れているところなんて何も思い浮かばない。見た目だって、平凡そのもの。家柄だって、ごく普通の一般家庭育ちでさ。そんなんでも、いいの?」
「もちろんです」
自分が知らぬ間に、親同士が相談しあって、勝手に許嫁にされていた。そんなわけだけども。
(ああ、やっぱり……)
未来が読める。恐らくこれからの人生で、こんなに可愛くて素敵な子に好かれることなんて、まず無いだろう。
(この子と、一緒にいたいな)
すなわち今の状況は、奇跡なのだ。チャンスなのだ。そんな考えは打算じみていて何だか嫌だけど、でもでも、そんなことを言っていたら一生彼女なしの独身間違いなしだろう。
ええい鬱陶しいと、健介は雑念を振り払いながら、結論を述べた。チャンスを掴むのだ!
「京香ちゃん。その。お、おりぇと、お付き合い……してもらえませんか?」
健介は動じてしまい、告白の台詞を噛んだ! 恥ずかしい!
「は、はい!」
京香は驚きのあまり目を見開いて、そしてぽろぽろと涙をこぼしてしまった。
「き、京香ちゃん!? い、嫌だった!? お、俺調子に乗ってた!?」
「ち、違……」
京香も慌てた。ああだめだです! 誤解だなんて思わせてはいけない! ここですれ違ったら、二人の関係は一生交わる事がないかもしれない!
京香は危機感を覚え、そしてはっきりと言い切った!
「ち、違います! 私、嫌じゃありません! 嬉しくて! これは、嬉涙です! ……はい! こちらこそ、よろしくおねがいもうしあげましゅ」
京香もまた、最後に噛んでいた。恥ずかしい!
けれど、そんなことはお互い様。
恋人になったばかりの二人は、気の済むまで抱きしめあうのだった。
最初のコメントを投稿しよう!