6.追憶と告白

1/1
前へ
/10ページ
次へ

6.追憶と告白

 小さな頃の思い出。  お外でも、家の中でも、二人でいっぱい遊んだ。 「健介くん。おままごとしよ?」 「いいよー」  それは女の子の遊びだったけど、健介にとっては当たり前のものだった。  ここは保育園じゃないから、邪魔が入ることもない。茶化すような、無粋な奴もいない。すべて、自由だった。 「おっきくなったらね。私を、健介くんのお嫁さんにして?」 「いいよ~」    無邪気な時はやがて、過ぎ去っていった。  そして、今に至るのだ。  ――健介の部屋にて、二人はお話中。 「私。健介様……。あ、いいえ、健介くん……に、相応しい人になりたくて。それで、お父様に我が侭を言って、海外留学をさせてもらったんです」 「そうだったんだ」  思い立ったら行動をする子だと、健介は思った。  もちろん京香は、健介と会えなくなって、とても寂しかった。  留学先は、厳しい学校だったけれど、くじけず、一生懸命に勉強をした。  それから、何年もの時が過ぎていった。   「海外出張のついでに、学校に来てくださいましたお父様に、寂しくないか? って、聞かれて。……私、堪えられなくなってしまって。情けない事ですが」 「それで、帰ってくることにしたんだ」 「はい。……それに私。ようやく気付いたんです。本当に、何も考えていなかったんだということに」  今まで、一体何をやってきたのだろう? 京香は後悔していた。  好きな人にきちんと思いを告げる事も出来ずに、逃げるように海外へと旅立ってしまった。 「健介くんの気持ちも、何も。……健介くんにだって、好きな人がいるかもしれないのに。我が侭ばかり言って、わけがわからなくなっていました」 「そうかな? 俺はラッキーだったけどね」 「ラッキー、ですか?」 「そうそう。小さい頃によく遊んだ女の子がね。こうして、すっごく可愛くなって帰って来て。その上俺の事を慕ってくれてるなんてさ。最高じゃん。親父と和泉おじさんから事情を聞いたときさ、それ、なんてベタベタなシチュエーションっていうのか。ギャルゲーかよって思ったよ」 「……」 「でもね、京香ちゃん。俺、没個性を絵に描いたような男だよ? 何か特技があるわけじゃない。優れているところなんて何も思い浮かばない。見た目だって、平凡そのもの。家柄だって、ごく普通の一般家庭育ちでさ。そんなんでも、いいの?」 「もちろんです」  自分が知らぬ間に、親同士が相談しあって、勝手に許嫁にされていた。そんなわけだけども。 (ああ、やっぱり……)  未来が読める。恐らくこれからの人生で、こんなに可愛くて素敵な子に好かれることなんて、まず無いだろう。 (この子と、一緒にいたいな)  すなわち今の状況は、奇跡なのだ。チャンスなのだ。そんな考えは打算じみていて何だか嫌だけど、でもでも、そんなことを言っていたら一生彼女なしの独身間違いなしだろう。  ええい鬱陶しいと、健介は雑念を振り払いながら、結論を述べた。チャンスを掴むのだ! 「京香ちゃん。その。お、おりぇと、お付き合い……してもらえませんか?」  健介は動じてしまい、告白の台詞を噛んだ! 恥ずかしい! 「は、はい!」  京香は驚きのあまり目を見開いて、そしてぽろぽろと涙をこぼしてしまった。 「き、京香ちゃん!? い、嫌だった!? お、俺調子に乗ってた!?」 「ち、違……」  京香も慌てた。ああだめだです! 誤解だなんて思わせてはいけない! ここですれ違ったら、二人の関係は一生交わる事がないかもしれない!  京香は危機感を覚え、そしてはっきりと言い切った! 「ち、違います! 私、嫌じゃありません! 嬉しくて! これは、嬉涙です! ……はい! こちらこそ、よろしくおねがいもうしあげましゅ」  京香もまた、最後に噛んでいた。恥ずかしい!  けれど、そんなことはお互い様。  恋人になったばかりの二人は、気の済むまで抱きしめあうのだった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加