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7.いろんな事情
「健介くん。一緒に帰ろ?」
放課後。健介は制服姿の京香に、声をかけられていた。今ではすっかり、クラスメイトであり、彼女(※みんなには内緒!)という関係になっていた。
(それにしても、京香ちゃん……)
紺色のブレザーがよく似合うなぁと、健介は思った。すっかりのろけている。
「帰ろっか」
「お買い物、していってもいい?」
「もちろん」
相変わらず、親父は仕事漬けだ。いつ帰ってくるかなんて、誰にもわからない。
もしくは、あえてそうしているのかもしれない。
息子に対し、しっかりやれよーと、ニやけながら言っているのかも。
「今日は俺が作るよ」
彼女におんぶにだっこでは申し訳ない。そう思って健介が言うと……。
「私に作らせてください」
京香は悲しそうに訴えかける。
長年にわたる花嫁修業の成果を、見てもらいたいのだとか。
「わかった。じゃあ、お願いするよ。……ていうか京香ちゃん、敬語敬語」
「あっあっ。いけませんでした。つい」
健介は思い出す。
和泉おじさんにお願いされた事を。
『京香も自分から行きたいと言っていたし。私も、娘によかれと思って留学をさせたのだけど……』
『結果として。かなり、浮き世離れしたお嬢様になっちゃったと?』
『そうなんだ。……親として、もっと構ってあげなきゃいけなかったのだけど。情けなくて申し訳ない』
そんなことはないですよと、健介は穏やかに言ったものだ。
日本を代表する一大企業のトップなのだから。多忙を極めるのは無理もないこと。
『定期的に、連絡はとり合っていたのだけど。思っていた以上に、厳格な学校だったようでな。久し振りに京香と会ったら、変わりように驚いた。……まるで、人形みたいになってしまって』
こりゃいかんと、そう思ったのだ。
『それで、俺と一緒に生活をして、庶民感覚を身につけてほしいってことですか』
『無責任な親だと思っている。勝手なことを言っていると、わかっている。それでも、頼まれてくれないか?』
『謝らないでください。そういうことなら、大歓迎ですよ。だって……』
こんなに可愛い子と、一つ屋根の下、一緒に暮らす。それも、自分のことをとても慕ってくれている子と。
最高じゃないか、それは。健介はそう思ったのだった。
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