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8.私からあなたへ
「け、健介くん。……いいのですか?」
「いいのいいの。今日はここで夕飯にしちゃお?」
世界的ファーストフードチェーンである、メクドナルド。
簡易的なテーブルの上には、ハンバーガーとナゲット。フライドポテトとシェイク。そして、京香が望んだサラダと、コーンポタージュのスープといった組み合わせ。
厳格なお嬢様学校で教育された京香には、この場の雰囲気はあまりにも自由すぎた。
学校帰りに食事をしていくだなんて……。と、誰かに咎められそうに思っていた。
健介は言ったものだ。食べたいときに食べたいものを食べるのは当然だよ。それって悪いこと?
健介はまごまごしている京香の腕を握って、ちょっと強引に、店内へと連れて行ったのだ。
「……おいしいです」
手を汚さないように、慎重に握って月見バーガーを頬張る京香。素直な気持ちが言葉になった。
「でしょ? ってか、また敬語になってるよー」
「あ、あ……。ごめんなさい」
お互いに、笑顔がこぼれる。
「京香ちゃんあのね。この後ね……」
食事の後は、また別のお楽しみをしようねと。またまた、健介からのお誘い。
「げーむせんたー、ですか?」
「そそ。ちょっと、遊んで行こ」
「は、はい」
どんなところだろう? まるで想像がつかない。けれど、断ることなどありはしない。
あなたはいつも、私の手を引いて、そして……楽しくて、新しい世界に連れて行ってくれますね。
私からあなたへと、何か、できることはないでしょうか?
京香はずっと、考えていたけれど……。
(こんなことしか、できません)
好きな人に、笑顔を見せること。ただそれだけ。
「健介くん」
それは、決して見せかけだけの、作り笑いではない。
言葉と共に、心から楽しい気持ちを、彼に伝えたい。
「連れてきてくれて、ありがとう」
とびきりの笑顔を、あなたに。
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