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9.今という時
小さな頃、京香は思った。
好きな人に相応しい人になりたい、と。
けれど何故か、歳を重ねるごとに、二人の仲は疎遠になってしまった。
女子とつるんでいるだとか、周りにからかわれたりして、一緒に居辛くなった。
京香はそれを、自分に非があるのだと思いこんでしまった。
私がお転婆で、落ち着きのない子だから……。
きっと側にいたら、恥ずかしいと思われているのだろう、と。
そして京香は逃げるように、遠くの地へと旅立っていった。
「自分で勝手に思いこんでいました。もっとちゃんと、健介くんと面と向かってお話をすればよかったのに。私……弱くて、怖くて、逃げてしまったのです」
お前なんか嫌いだ! 近寄るな!
いつか健介に、そう言われるかと思ってしまったのだ。
逃げた代償。それは失ってしまった貴重な時間と、歪んで変わり果てた自分。
「京香ちゃんは何も悪くないよ。……気づいてあげられなくて、ごめん」
健介は、穏やかな口調で言った。
「小学生くらいになると。周りも悪ガキでさ。……女の子と一緒にいるだけで、意味も無く冷やかしたりするんだよ」
「そういうもの、ですか?」
「うん」
ただ、それだけのこと。
「京香ちゃん。これからも、よろしくね」
「はい!」
でも、こうして再び会えた。
「これからは、ずっと一緒にいようね」
今という時の貴重さを噛みしめながら、京香は笑顔で頷いたのだった。
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