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「しかし……。」
正直、私の考える結末は頂けなかった。
◇
「ボクはボクの世界に生きる。窮屈な世界は放り出してしまえばいい。
さあ、ユウキもナオミもボクの世界で生き続ければいい。
ボクという大樹の元で永遠の愛を誓おう。」
ボクが二人に微笑むと、二人とも複雑そうではあるものの、微笑み返してくれたのだった。
ーーその数日後、3人の若い男女の遺体が海岸に打ち上げられた。
不思議なことに3人のその顔はキレイなままで、みな幸せそうだったと目撃者は言う。
◇
ディストピア脳というべきか、他人にはわからない当事者だけの幸福に持っていこうとする悪い癖が、どうしても私の思考を支配する。
「こんなのは、どう?」
私の苦悩を悟ってか、悠斗は自分のスマホのメモ帳に書いた文を私に見せた。
◇
「ーーもし。
もし、神が許すのなら。
ボクはボクの世界にある者を須らく愛したい。
そうやって支えることしかボクにはできないのだから。」
ボクは二人のどちらかを選ぶことはしなかった。けれどもボクはどちらかを選ばないこともしなかった。
ーー数年後、一つの小さな木の芽が芽吹いた。その木の芽は後に『ユグ・ドラシル』として、新たな世界を作ろうとは誰も予想だにしなかった。
◇
私は驚いた。この話の展開で、これだけ煮え切らない結末を望む読者はいないだろう。にもかかわらず、悠斗は私が決めた終わり方にたどり着いたのだ。それどころか『ユグ・ドラシル』を暗喩で用いただけの私に対し、悠斗は『小さな木の芽』を『ユグ・ドラシル』として生やしたのだ。その方が主人公が自分を貫きつつ前向きで終われてはるかに良いし、なんなら続編も書ける。
「よし、それで行こう。」
私はさっそく自分のスマホで『ユグ・ドラシル』を完結させた。同時に今まで心の奥に引っかかっていた何かが、すっと取れたような気がしたのだった。
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