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瞬間、躰が硬直し、歩を止めた。歩けない。
そんな私の元に彼は歩み寄ってきた。
「神崎」
彼のその言葉にぱっとその場を辞し、足早に歩き始める。
「待てよ」
「離して!」
私の後ろ手を掴んだ彼に、そんな拒絶の言葉を私は発していた。
私はとことん素直になれない。
彼の手の力は緩まなかった。
「ごめん」
彼は一言、はっきりとその言葉を口にした。
「俺……。お前にあんなに夏休み、勉強見てもらったのに、自分が不甲斐なかったんだ。それと」
彼は、呟いた。
「悪かったよ。あんなこと言って。お前があんな言い方されるの、一番嫌ってることよく知ってたのに……」
彼は私の手を離し、そして深く頭を垂れ言った。
「本当にごめん」
「守屋君……」
彼は私の顔を見つめ、真剣に言った。
「今からまた死ぬ気で頑張る。お前と同じ大学には行けないけど、現役合格目指すよ」
「守屋君……」
彼のその一言で、私は一気に気が緩んだ。
私の中でわだかまっていた重く苦しかった想いが自然と溶解していく気がしていた。
彼の気持ちが嬉しくて自然、熱いものがこみ上げてくる。
それはキラリと光り、私の頬を伝って落ちた。
「泣くなよ……。いや、泣かせた俺が悪いんだけど」
守屋君は、ぽりぽりと頭を掻いている。
しかし次の瞬間、照れたように柔らかく笑んだ。
「一緒に帰ろう」
「うん」
そうして、彼との『初めての喧嘩』は終わりを告げた。
流れた涙を拭った左の手の指を彼の右手に絡めながら……。
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