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挨拶
我が高校の演劇部は、少し変わっているかもしれない。
顧問の先生が脚本を担当することは、そう珍しくはないだろうけれど、なんといっても恋愛専門なのである。
理由は、10代の年頃の男女が、恋愛についてどういう考えを持って演じるのかを顧問自身が見たいから、というもの。
さらに、その恋愛の芝居(ラブシーン)は、かなりリアルと有名。
なんといっても、濃厚な接触がメインにあって、見ているひとたちをドキドキさせないことはまずない。そういった表現のせいで、先生方の中でも賛否両論。
演劇部に入部すると、必ず言われる"掟"がある。
それは、舞台上で本番をしないこと。
いかにどう観客に魅せるのかが売りなのであって、実際にしてしまったら無意味、という概念がまず第一にある。その"掟"について、先生たちは知っているからこそ、完全否定はできず。この文化が伝統となりつつあった。
*
「…じゃあ、今度の定期公演のヒロインは御門さんで、ヒーローは鷹宮くんに決定〜! 先生、がんばって脚本書くから、三浜監督、よろしくね」
夏休みに入る直前、今学期最後の部活動で、文化祭におこなう公演の主役が発表された。演劇部は、夏休み中の活動は休暇の終わり頃からの活動再開のため、毎年決まってこの日に決定する。
役はたいてい部員の多数決によって決められる。今回も例に倣って、数名の候補者を挙げ、その中で選ばれた。恋愛が主な内容の芝居だから、必ずふたりずつの役決めとなる。組み合わせは男女になるとは限らないけれど、今度は男女だった。
組み合わせが決まってからの本作りになるので、主役に選ばれると、先生から監督に指名された生徒と、先生との打ち合わせが増える。わたしはいつも、その光景を遠くから眺めていた。
「はい、今回で3度目の監督を務めます、三浜です! 3年生にとっては最後の定期公演、成功して幕が閉じられるようにご協力よろしくお願いします」
監督に指名された、三浜さんが挨拶して、部員全体のミーティングは終了。解散後は与えられた役割に分かれて作業を行う。衣装担当、舞台装置作成の担当なども、すべて部員がするためこれから忙しくなる。
2ヶ月後に控えた、文化祭。そこで行われる定期公演が終わると、3年は引退となる。といっても、それは事実上だけで自由参加だから、顔を頻繁に出す先輩たちも例年少なくはなかったけれど。
わたしは、今度の文化祭で本当に演劇からは身を退く。高校時代のいい思い出として、潔く終える。
それなのに、どうして………
最後の最後で、演劇部に入って初めてのヒロイン役なんて。
しかも、相手は。
「姫苺先輩。よろしくお願いします」
「……」
我が部のエースだけど、苦手な鷹宮くんだなんて。
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