ささくれ虫の被害者Iさんの話

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「はっ、はい!」 「現時点では何もせず、人との直接的な接触を出来る限り避けるのが寄生拡大を防ぐ最大の治療って言われてるんだ」 「何もしない、ですか…」 「そうなんだ、ごめんね。あ、でも今の状態は分かるから説明するね。腫れがどんどん酷くなってるって言っていたけど、実はこれささくれで傷ついた所に卵を産みつけられたんだ。で、中で孵化(ふか)して成長してる段階。今はまだ幼虫だね。幼虫は人の血液を養分に成長するらしい、つまり今Iさんの血液を吸っている訳だ」 「ええっ…」 もう最悪ですよね、Iさんもこの時凄く気分が悪くなったって言っていました。 「それで今はまだそこまでじゃないけど、もっと腫れが大きくなる。そうすると外から見ても腫れの中のささくれ虫が動いたりするのが分かるらしいんだ。それでそのあとすぐ(さなぎ)になる」 「あの、ちょっと体調が……」 「そうか、じゃあそこのベッドで横になると良いよ。それとこれ手袋。医療用の薄いやつだけど大丈夫。腫れは絶対に潰さないようにね、どうもささくれ虫の蟻酸(ぎさん)みたいなのが人体には有害らしいから。万が一潰してしまったらその蟻酸が体内に侵入して最悪ショック死する危険もあるんだって。」 「……し、死んじゃうんですか?」 「最悪のケースだけどね。潰さなければ平気さ」 お医者さんはこういうことに慣れているのかもしれないけど、たまったもんじゃないですよね。Iさんも慎重に手袋してベッドに横になったけど、全然気分が良くならなかったって。それでもずっと居るわけにもいかないじゃないですか。だから小一時間休憩してから、 「あの、もう大丈夫です。少し良くなりました」 って言ったそうです。それを聞いてお医者さんは少しほっとしたみたいです。 「それは良かった。じゃあ経過を観察したいから、また来てくれるかな?」 「はい、分かりました」
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