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こんなにも綺麗な人を、私は今まで見たことがなかった。テレビで有名になるほどのイケメン、ハンサムと言われる人たち。漫画やアニメに出てくるような、美形と呼ばれる異次元世界の者たち。そのどれとも違う、“異質”なまでの綺麗さが、そこにはあった。
お面を付けていた男性は、またもや固まる私を見て少しだけ首を傾げた。
「……面を取ったんだが?」
「気絶じゃあないです。僕を見た時と同じで、びっくりしているだけです」
そう言うと薄緑色の髪の少年は地面に片膝を付き、こちらに顔を向けた。
「突然のことで驚かせてしまい申し訳ありません。向こうでゆっくり話をする余裕がなかったので、こちらまでお越しいただきました。僕は鎌鼬の風地と申します。そして、隣にいらっしゃるのが、この土地を治めている領主、大天狗の一翠様です」
は? え? 今、なんて?
「実は、あなた様にお願いしたいことがございまして……」
混乱する私をよそに、話を進めようとする風地と名乗る少年の言葉を慌てて遮る。
「ち、ちょっと待って。一つ確認なんだけど……鎌鼬、とか、大天狗って、苗字のことだよね?」
「いいえ、僕たちにはそのような固有の名称はありません。“あやかし”ですので」
「へ? あ、やかし?」
風地はコクリと頷く。
「あ……えっと、あやかしって、つまり、その……妖怪ってこと?」
私の言葉に風地は少しだけ嫌な顔をした。
「人間からすれば、どちらも同じ意味の言葉として使っているんでしょうけど、妖怪と呼ばれるのは僕は好きではありません」
「あう、ごめんなさい」
とっさに謝りながらも、まだ思考が追いつかない私は、改めて二人の姿を見る。人間の姿をしているのに、何かが違う。きっとそれは、纏っている雰囲気が人間とは違うから。触れた途端どこかへと消えてしまいそうな危うさ、儚さ、そんなものを感じる。
「……あやかしを見るのは初めてか?」
それまで黙っていた、一翠と呼ばれる男性がこちらに目をやる。コクコクと頷く私を見て、一翠は不思議そうな表情をした。
「向こうで俺たちの姿が見えていたなら、今までに他のあやかしを見ていてもおかしくはないんだが」
「……あやかしって、そんなどこにでもいるものなの?」
怖々と尋ねる私の後ろに向かって、スっと一翠は指さした。
「あぁ、いる。現に今、お前の後を着いて来ている者がその後ろに」
「え!」
バッと振り返り見てみるも、私の目には何も見えない。あるのは先ほどまで私が寄りかかっていた木の幹だけ。
「安心して下さい、そんな者はいません。一翠様のご冗談です。それより話を進めましょう」
え、今の嘘なの?
うわぁ……嫌だなこの人、真顔で言うから本当のことかと思ってしまったじゃないか。いや、人ではなくあやかしか。
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