領主様の頼み事

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「学生さん、だよね?」  私の制服を見ながら、女の人が尋ねる。 「……そうです。高二になります。お姉さんは仕事帰りですか?」 「うん、今日は早上がりでね。嫌なことがあるとここに参拝しにくるの、私」 「え……」  女の人の顔を見る。もしかして、私と同じ? 「どうして私に話しかけたんですか? 一人で喋って笑ってる奴って、なんかその……結構やばいと思うんですが」  私の言い方がおかしかったのか、女の人は笑い出す。 「確かに普通なら近寄りにくいかもね。でも、誰だって心に溜めてたものを吐き出したい時はあるから。吐き出せずに溜め続けてたら、いつか心が壊れちゃう。そうでしょ?」 「……そう、ですね。あの、さっき嫌なことがあるとここに来るって言ってましたけど、何かあったんですか? って、私に話してもって感じですよね、ごめんなさい」  女の人は首を横に振ると言った。 「ううん、逆に聞いてくれると助かる。それにあなた、神の使い、かもしれないんでしょ?」  ニコリと笑う女の人を見て、私は顔を引き攣らせながらあははと笑った。 「ねぇ、さっき言ってたことって、本当? 確か、自分が関わるとその恋愛が上手くいくっていう」 「はい……私はたまたまって思ってたんですけど、かなりの確率で上手くいっちゃうらしくて。学校でも噂になっちゃってるらしいんです」 「……わぁ、すごい」 「全然すごくなんか。自分自身の恋はめっきりダメですし」  俯く私の手を女の人は握る。 「そんなことないと思う。たぶんこれから。だって今までたくさんの人の恋の手助けをしてきたんでしょ? だったら、必ずいつかそれが大きなものとなって自分に返ってくる。その時、きっと誰よりも素敵な人と巡り会えると思うな」 「うわぁ……お姉さんの言葉の破壊力、すごいですね。メモしてもいいですか?」 「こらこら」  いつか、素敵な人と巡り会う、か。そう言えば、果報は寝て待て、とか、石の上にも三年、とか言うけれど、そういうことだろうか? いや、なんか違う気もする。 「ところで、お姉さんの悩みって……」 「もちろん恋の悩み。最近別れちゃって。って言っても、未練があるとかそういうのはないんだけどね。ただ、最近何に対してもやる気が起きなくなっちゃって。周りからは新しい恋さえすればもとに戻るって言われるんだけど、どうもそんな気分になれなくて」 「……やる気が出ない、か」  何かに夢中になっていたのに、急にそれがなくなると反動のように他のことに対して無気力となってしまう。今は明るく笑っているけれど、放置してこのまま長引けばきっと取り返しのつかないことになる。人の心というのが、何よりも難しい問題なのだと、まだ小学生の私に向かって母が言っていた気がする。って、幼い子どもに何を教えているんだあの人は。今ならその言葉の意味がわかるけど、当時の私はちんぷんかんぷんだった。そんな話ばかりしないで、学校の勉強を教えてほしいと何度思ったことだろうか。
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