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厳しい残暑の続く九月。それでも辺りはすでに真っ暗で、確実に季節の流れを実感する。
「暗いのはいつものことだけどな」
自重気味に呟いた声は、静まり返った住宅街に虚しく響いた。
昼間は確かにまだ暑さが残るが、夜十時を過ぎるとさすがに風が涼しい。だがこの暗さはいつも通り。なぜなら年中帰るのはこの時間帯だからだ。
ああ、早く帰って寝たい。
昨日まで列島を襲っていた台風の影響か、夜風はいつも以上に蒸し暑かった。今晩は寝苦しくなりそうだと、闇に塗り潰されたような帰路を急いでいると、視界の端で何かを捉えた。立ち止まる。
やつれた顔を左へ向けると、子犬だった。今にも死にそうに道端で行き倒れている。台風にやられたのか、身体中泥だらけでぴくりとも動かない。
俺は数秒、惑うように立ち尽くしていた。小さな体は一定のリズムで上下していて、辛うじて息はあるようだ。
「かわいそうだけど……俺が拾って帰っても世話する余裕はないしな」
時には無責任に拾うことのほうが不幸にするものだ。そう自分に言い聞かせながら、胸が締め付けられるような思いを抱えて足早にその場を後にする。
「…………」
十分後、玄関先で俺は泥にまみれた小さな生き物を抱えて立っていた。
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