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「そういえば春日井さん、犬のもらい手を探してらっしゃるんですか?」
「え?」
午後一番でシステムエラーの修正依頼に来た柏木嬢は、復旧を伝えると同時に、思い出したように言った。
「人事の岡崎主任がそんな話をされていたので」
「ああ……」
あの犬を拾った次の日、出会った知人に片っ端から声をかけて回ったことを思い出す。その経由で総務まで話が伝わったのだろう。
「実は拾ってね」
そう説明すると、彼女は視線を彷徨わせて言い出しにくそうに切り出した。
「あの……良ければ今夜見に行ってもいいですか? 私、好きなんです!」
ぐっと身を乗り出す彼女に、若干気圧される。
俺と同期入社の柏木さんは、美人で社内でも人気が高いと聞いたことがある。今、目の前にいる彼女は確かに綺麗で魅力的な女性だった。
もっとも、俺には無縁の話だが。
何しろ仕事でいっぱいいっぱいで、ここ数年彼女などいない。いや、マジで。
「うーん、今夜は難しいかな」
主に仕事が終わらないという理由で。苦笑いを浮かべると、柏木さんの整った眉がハの字に下がる。
「今夜っていうのは急過ぎますよね。すみません。こ、今度の休日とかどうですか?」
上目遣いにお願いされれば、イエスと答えるほかない。
「やったあ! ありがとうございます、楽しみ!」
満面の笑みで去っていく彼女を見送りながら、俺はなぜか気が進まなかった。
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