幼馴染

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鎮痛剤は効かなかった。今まで生理痛とは無縁の生活だったので対処方法がわからない。徒歩通学なので、取り敢えず痛みを我慢して歩いて帰って、玄関で倒れこむようにうずくまりママを驚かせた。 居間のソファで眠っていたらしい。微睡みの中で玄関の呼び鈴が鳴って対応しているママの声がした。戻ってきたママから鞄を受けとる。 「ヒロ君が鞄届けてくれたのよ、明日お礼言いなさい」 鞄を置いたまま帰って来たことに親子共々気づかなかった。教室に寄るのも忘れて帰宅するなんて相当重症だ。もう少し安静にしておこうと、鞄を持って自分の部屋に行く。 ベッドで横になる。 ママの中で荒木はヒロ君のままなんだと思った。 小学生の時は一緒に帰って毎日遊んだ。小学校五年生の時クラスが分かれてから話をすることもなくなった。たぶん盲腸事件はヒロ君との最後の思い出だ。あの時ヒロ君は腹痛で動けなくなった私を抱えることが出来ず、公園の遊具の中に私を寝かせ、家までママを呼びに行った。盲腸は破裂して腹膜炎になっていて本当に危なかったらしい。 中学ではずっと別々のクラスで、高校で久しぶりに同じクラスになった時、荒木と生稲になっていた。ほとんど言葉を交わさない。目もあわせない。避けていたのは荒木の方なのか、私なのか。なのにいつも視線の端に荒木がいた。無関心を装いながらいつも荒木の声を探していた。 痛みがおさまったら、身体が熱っぽくなってきた。 私を抱えられるようになっていた荒木の大きさが、低くなっていた声が、消えてくれない。 何度も何度も寝返りを打つ。 自分の血の匂いに眩暈を覚えながら眠りに落ちる。
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