幼馴染

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ピロティをググったら「一階を吹き放ちにして、二階以上を部屋とした建物の一階部分」とあった。フランス語だそうだ。 どうしてフランス語かとググったら、1926年、スイス生まれでフランスで活躍したル・コルビュジェという人がいて、彼が提唱した近代建築の五原則の中にピロティという様式が含まれていたらしい。 戦後建てられた日本の学校はこの五原則に則って作られたようで、校舎には往々にしてピロティがある。日本語にピロティの良い訳語がなかったらしく、日本の学校には不自然なピロティという言葉が存在している。小学校にもピロティがあったなと思い出した。 それにしても雨が止まない。何人かの生徒がピロティで足留めされていた。私もスマホで色々検索しながら30分くらい待っている。お陰で少し賢くなった。あと10分待って状況が変わらなければ諦めて濡れて帰ろうと思った時、傘をさしかけられた。 荒木だった。 「部活、終わったの」 「うん」 それだけ話して、どちらからともなく並んで歩き出す。ピロティのざわつきが遠くなる。 この間、鞄を届けてもらったお礼は言った。それ以外は気まずくて何も話していない。私達の距離は縮まらなかった。むしろ意識しすぎて壁ができてしまった。だから荒木とひとつの傘はとても心地が悪い。断ればよかった。 荒木の右肩が濡れている。傘を荒木の方に傾ける。 「この前は大騒ぎにして、ごめん」 荒木がまた私の方に傘を傾ける。 「私の方こそ、ありがとう」 鞄を左肩から胸の前に持ちかえる。 「もう大丈夫なの」 「うん」 雨音だけが響く。 無言の空気に耐えられなくて話題を探した。 「さっき暇だからピロティってググったんだ、ピロティってフランス語なんだって」 「ふうん」 「小学校の時は雨の日によくピロティで鬼ごっこしたよね、校長先生に危ないからここで遊ぶなって怒られてさ…」 荒木が話を遮る。 「俺達もう小学生じゃないから」 雨がひどくなる。靴もスカートも濡れてしまった。沈黙にもこの距離感にも耐えられない。家まで走って帰ろうか。 「家そこだから、私もう」と傘を飛び出そうとした時、荒木は言った。 「お前のことが好きだ」 まっすぐに私を見る。 「幼馴染とか友達とか曖昧な答えは要らない、考えて返事して」 荒木が私に傘を押し付けて立ち去ろうとする。 私は荒木の手をつかむ。 荒木が振り向く。 どんな返事をしても疑うくせに。 湿った身体と雨音が、今までの距離を崩す。 傘にかくれて口づけた。 「お帰り、びしょ濡れじゃない、電話くれれば迎えに行ったのに」 返事もできずに無言で部屋に行く。 隠しごとができてしまった。 ママの顔が見れない。
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