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この仕事を始めてもう10年になる。
大きく古びた機械から半透明の夢が出てきて、私はそれを検品・袋詰めにする。出来た商品を段ボールに詰め、6箱を一組として扱う。出来たものは出荷担当に任せて、私は再び検品作業に戻る。
単純作業だが実にやりがいのある仕事だ。世界中の人間が私の作った夢を見ている…そう思うと頬が熱くなった。
「すみません…」
突然話しかけられて反射的に振り向くと、違う部署の作業員が紙を持って立っていた。
「次流れてくるやつ全部不良品なんで…箱に入れて廃棄してください」
…またかよ。
最早何度目か分からない。今年入った新人が原因なのだろう。
「了解」
「すみません度々…」
「お前も大変だな」
「いやぁホントですよ…何度言っても量を間違えるんですよね」
作業員と話しているうちに不良品が流れ始めた。元々空に関する夢が流れてくるはずだったが、どういうわけか病気になる夢(空に関する夢は瑞々しい青色で、病気になる夢は黒に近い灰色)が大量に製産されたようだ。
廃棄用の箱はフロア内に溢れ、他の部署から箱を持ってくる始末だ。
「問題の彼…今年中に辞めるそうですよ」
同じく新人の女作業員が笑いながら言った。
「辞めてくれないと困る」
そう言ってフロア内のみんなが笑った。
「…ってことが昨日あったんだよ」
向かいに座る女性が顎に軽く手を当て、「そうですか」と頷いた。
彼女の横顔はどこか異国風だ。が、どことは言えない。どこの国の顔に一番近いか考えてるうちにいつの間にか話が終わっていた。
「…そういえば、五里さんはなぜその仕事に就こうと思ったんですか…?」
嬉しいことを訊いてくれた。
膝を進めて胸をそらす。自然と口数が多くなり、話が寄り道ばかりする。自分を落ち着けるために咳払いを一つして、こうまとめた。
「人の人生を彩るような変わった仕事がしたかったんだ。人生の3分の1は睡眠だろ?どんな嫌な一日だったとしても一度寝て、幸せな夢が見れたら心が少し軽くなるだろ。私はそういう仕事がしたかったんだ。いや、過去形じゃダメだな。私はそういう仕事をしたいんだ。…し続けることが夢なんだ。」
「…なるほど」
彼女は口許を隠したままそっけない返答をした。話したくないなら会わなければいいのに。なぜ彼女と会話することになっているのかいつも不思議だが、気付いたら何故かここにいる。
「…とりあえず…薬の量はどうですか」
「あぁやっぱり腰が痛いな。あの痛み止めじゃ効かねぇよ」
「…そうですか。……睡眠薬や安定剤はどうですか」
「…うん?…先生、アンタ忙しすぎてカルテ間違えてるよ」
「…」
私が笑いながら指摘すると彼女も笑いながら紙をめくった。
「…あー…。…とりあえずお薬増やしときますね」
彼女の口許だけが笑っていた。
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