玉ねぎ禁止之事

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 すると、その先に小さな木造りの家がありました。  料理をしているようで、トントンと刻む音が響いてきます。  王様は、その家のそばまで来ると、とても不快な気持ちになりました。  あの、涙をもたらす悪の野菜どくとくの悪臭が、鼻をかすめたのです。  もしや、と王様は家の中を窓からのぞきこみました。  見れば、小娘が泣きながら玉ねぎを切っているではありませんか。  王様は怒りをこらえて笑顔で、窓をコツコツと叩きました。  幸福の体現である王様は笑顔に努めなければならないので、怒ってはダメなのです。  窓の外にいる王様を見た小娘は、涙あふれる目をパチパチと瞬いて、しばし動きを止めて見つめると、窓へと向かってきました。 「どうして玉ねぎを切っていたのだ」  王様は即座に尋ねました。  小娘は首をかしげると、 「今日の私の仕事が、家族の夕食作りでございますゆえ」  と、答えました。 「そうではない。なんで、玉ねぎを使うのだ」  小娘の答えにいらだつ王様の笑顔が、ひきつります。 「なんでって、おいしいでしょう?」  悪びれない娘の言いように、王様はようやく気づきました。 「もしや、『玉ねぎ禁止之事』を知らぬのか」 
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