失恋した日に人生最後の恋に出会いました

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「美優、絶対に幸せにする。俺なら、美優を絶対に泣かせたりしない」 なんだろう。 監督の低い声は、私の胸の奥にさざなみを立てる。 落ち着かなくて、でも、このまま流されてしまいたい気分になる。 「本当に私でいいんですか?」 私は今日、人生で一番自信が持てない日だ。 一番、自分を卑下したくなる日なのに、ほんとに? 「言ったろ? 美優じゃなきゃ、ダメなんだ。俺は、そのままの美優と付き合いたい。だから……」 監督は、私の手を引いて、柱の影に引き入れた。 途端に出入り口の群衆からは見えなくなって、喧騒もどこか遠くなる。 「だから、美優。愛してる。世界中の誰よりも」 ここまで言われて嬉しくない女性がいるだろうか。 「あの……、佐野監督の思いに応えられるかどうか、分かりません。それでも、もし、私でもいいなら……」 私がそう答えると、監督は、私の手を離して、私をぎゅっと抱き寄せた。 「ありがとう。ありがとう、美優。絶対に幸せにするから」 ふふふっ 私の頭に監督の顎が当たって、声が頭のてっぺんから直接響いてくる。 私は、そっと腕を上げて、彼の腰の辺りを、キュッと握った。 なんでほぼ初対面なのに、こんなに彼の胸はあたたかいんだろう。 彼の胸からトクトクと伝わる少し速い鼓動が、こんなに心地いいのは、なぜなんだろう。 私が、彼の温もりに酔いしれていると、彼はその腕をほどいた。 私は、それがなんだか名残惜しくて、彼を見上げる。 すると、彼は、私の頬をその大きな手で包み込んだ。 「美優、好きだよ」 彼の低いささやき声と共に、彼の唇が重なった。 その瞬間、幸せな思いが胸いっぱいに広がる。 それは、愛されている実感だったのかもしれない。 そこがわずかに人通りのある廊下だと気づいたのは、彼の唇が離れた後だった。 私、なんて所で…… 気づいた途端、恥ずかしくなる。 「美優、顔が真っ赤だ」 優しく微笑んだ監督が、私の頬を撫でる。 「こんな美優、人に見せたくないな」 そう言った監督は、再び私をその腕に閉じ込めた。 私が、3年間の長い片思いに終止符を打ったこの日、私の人生最後の恋が始まった。 ─── Fin. ─── この物語は、以前書いた 『友達以上』 https://estar.jp/novels/25583300 の続編です。 あとがきにも書いたその後です。 楽しんでいただけたら、嬉しいです。 ・:*:・:・:・:*:・ レビュー・感想 ページコメント 楽しみにしてます。 お気軽に一言呟いてくださいね。
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