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エンドロールが流れる暗闇の中、気の早い客が立ち上がる気配がする。
けれど、私の涙は止まることを知らない。
うぅ……、スン……
私は、顔を両手で覆って、鼻をすすりながら泣きじゃくる。
でも、大丈夫。
泣いているのは、私だけじゃない。
誰もが泣くと評判の、映画。
だから、私がいくら泣いていても、誰も変には思わないはず。
けれど、当然のことながら、エンドロールもいつかは終わるもので……
ハンカチを握り締めながらも、人々は立ち上がって出口へと向かっていく。
けれど、私の涙は止まりそうにない。
私が必死で涙を止めようとしていると、目の前にネイビーの少し艶のあるハンカチが差し出された。
「どうぞ」
低い声……
でも、不思議と優しい響き。
「いえ、大丈夫です」
私は、自分のハンカチを握り締めて答えると、無理やり涙を拭って立ち上がる。
あれ?
この人、大きい!
うつむいたまま立ち上がった私の目の前に彼の腰がある。まぁ、うつむいてるからっていうのもあるんだけど、それにしても、腰の位置が高い。
どれくらい背が高いんだろうと気になるけれど、泣き顔を見られたくない私は、俯いたまま、相手の顔を見ることもできない。
私は、そのままちょこんと形ばかり頭を下げて、その場を去ろうとした。
けれど、彼はそのまま私について来る。
何?
……あ、そうか。
映画、終わったんだもん。
外に出るのは、当たり前か。
そう気づいた瞬間に、永遠に止まらないんじゃないかと思ってた涙が一瞬止まり、くすりと笑みがこぼれた。
全く、失恋したばかりのくせに、自意識過剰だよ。
私は、思わず自嘲する。
そう、私は、今朝、失恋をした。
告白をして玉砕したわけじゃない。
まだ付き合ってはいないけど、思いは通じてると思ってた彼に、彼女を紹介されたんだ。
思い合ってると思ってたのは、私の思い上がりだった。
バカよね。
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