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皆の顔が強張る。この海域で船が拿捕されれば、それはエルドラド号以外あり得ない。
「それはいつのことだ」
「まだそれほど経っていない」そう言いながら女性は太陽と山の間の空を指差す。「日の位置があの辺りの頃だ」
日の出と共に戻っていたら間に合ったかもしれない。咄嗟に船に残った二人の身を案じたのはブルームアだけではなかった。ハンダが身を乗り出して尋ねる。
「乗っていた者については? 何か見なかったか」
「分からない。見張りの場所は港から離れているんだよ。人はアリほどの大きさにしか見えないんだ」
アイリーンがブルームアに目を合わせ尋ねてくる。
「あんたたちが乗って来た船か」
「そう考えて間違いないだろう。マイルとキースが捕まっているのかどうか、それだけでも分かればいいのだが」
「船に残っていた者がいたのなら、捕まっているだろうね。この海域で何をしていたのか、尋問されているだろうよ」
尋問、の言葉に反応して眉間にシワを寄せる。軍人は怪しい者に対して容赦しない。ランスの話が鮮明な頭には二人が鞭打ちされる場面がよぎってしまう。今更ながら離船してしまったことをブルームアは後悔した。
「港へ行かなければ」
「オレたちも行く」
船乗りの一人が言うと、他の皆も頷いた。
「それは危険すぎる。兵員は君たちの姿を見ただけで銃の引き金を引くだろう」
「仲間が捕まっているのに隠れているなんて出来ない。オレたちの故郷で好き勝手させてたまるか」
「そうだ」と賛同の声が上がる。これまで船乗りたちの意思を尊重してきたが、命がかかっているとなると慎重にならざるを得ない。年長者なら思慮のある意見を聞けるだろうと思い、発言を促すようにボウマンを見た。
「わたしも皆と同じですよ。銃を恐れていたら何も出来ませんからな」
力のこもる目を見て、ブルームアは気付く。故郷の空気が皆の気を大きくしているのだ。蛮勇を振るった結果は悲惨なものになることを説いても無駄だと知る。
「気持ちが逸るのは私も同じだ。だがシーブルの幸せを第一に考えて行動してきたこと思い出して欲しい。せめて二人が囚われているかどうか確かめてからではどうか」
「それで間に合うんですか」
挑戦的な声が返ってくる。間に合わないかもしれない、とは言えない。難しい問いにブルームアが返答に窮していると、高い声が割って入った。
「お待ちなさい」
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