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歩くにつれ、踏みしめる地面に大小様々な石が多くなってくる。やがて水が円形に溜まった場所が見えてきた。周囲をぐるりと岩が囲んでおり、池のよう。流される危険性が低いため、水遊び場になっているのだ。数人の子供が頭だけ水の上に出して浸かっている。大人の腰くらいまでの深さなのだと分かったのは、隅でボウマンが水の中に立っていたからだ。
「ここにいたのか」
ブルームアが寄って声をかけると、友人は微笑を返してきた。
「シーブルがすっかり馴染んでしまってね。無理やり連れていくのは忍びないと思っていたら、つい遅くなってしまいました」
幼子の意思を知りたいと思っていたが、尋ねる必要はなかった。水の中で少女たちと一緒になって頬を綻ばせているのを見ればここが気に入ったのだと分かる。
「ここは水辺も多い。シーブルには過ごしやすいのだろう」
「歳の近い子供もいるし、このままここで暮らせたらどんなにいいかと思いますよ」
「それなら」隣に並んだハンナが自信たっぷりにブルームアの顔を覗き込む。
「ここで暮らしたらいいよ。わたしがお世話してあげる」
無邪気な顔を曇らせたくなくて、無難な回答をした。
「シーブルは男の子だ。この島にはいられない」
「それならわたしの部屋に匿ってあげる。あそこなら見つからないよ」
ブルームアは押し黙った。ハンナが前向きな発言をする度に胸が塞がっていく。一見平和そうに見えるこの地は、子供も女性しかいない。それが当然のことのように思うのは、異常なことだ。
目の前ではボウマンが「もう行くよ」とシーブルの手を掴んでいる。幼子はもっと遊びたいと駄々をこねてその場から動こうとしない。そんなささやかな望みさえ叶えてやれないことに疑問を抱く。幼い命を守るために生きようと決めたブルームアの心に、再び熱い思いが湧いてくる。
(数年前に大敗を喫したではないか)
いくら思いが熱くても、強大な武力を持った相手の前では役に立たないとよく知っている。苦々しい思いを吐き出すように、ふっと小さく息を吐いた。
「ね、どうしたの」
「何がだ?」
「おじさん、怖い顔してるよ」
ハンナが心配そうな目つきになっているのを見て、いつの間にか険しい表情をしていたことに気付いた。
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