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声の方を向くとエスペランサが立っていた。案内役も一緒だ。後をつけて来ていたのか。話は聞かせてもらったと言わんばかりの顔に尋ねる。
「待てとは、どういうことか」
「わざわざ危険を犯す必要はない、と申しているのだ」
目を見張る船乗りたちが何か言い出す前に、ブルームアが先に口を開いた。
「他に良い策があるということか」
「そうだ。わたくしが交渉しよう。そなたよりうまくいく」
「あなたが?」
周囲が怪訝な顔をする中、ブルームアは尋ねる。
「なぜ交渉してくれるのだ。これは我々の問題であって、あなたには関係ないはずだ」
「確かに、そなたたちに何が起ころうとわたくしには関係ない」
「ちょっとあんた、今は遊んでいる場合じゃないんだよ」
そう横槍を入れたのはアイリーンだった。エスペランサはそれを聞き流し、ブルームアに視線を寄越す。
「だが、そなたには助けてもらった借りがある。返さねばなるまい」
「昨日の状況を見たなら、誰でもそうするだろう。私は貸しだとは捉えていない」
「そなたはそうであっても、わたくしは違う。それに少々の交渉なら造作もない」
「そうか。理由は分かった。だが、どうやって交渉を?」
「心配せずともちゃんと考えてある。成功させる自信はあるが、わたくし一人では効果がないかもしれない。ゆえに」
エスペランサは欲しいものをねだるような目でブルームアを見つめた。「補佐役として、そなたも同行するのだ」
それは正面から堂々とゾルギア人と対峙するということだ。船乗りたちが否定的な表情を浮かべる中で、ブルームアは静かに王女を見つめ返した。
「私はお尋ね者だ」
「知っている。そなたの名は知られているが顔までは知られていない。わたくしが気付かなかったくらいだ。偽名を使えばよいだろう」
「しかし、あなたの補佐となれば、それなりの地位を持っているということになる。この日焼けをした肌と借り物の衣服で誤魔化せるだろうか」
「それなら問題ない。ここで得た知識で、わたくしに考えがある」
そこまで言われれば、ブルームアの気持ちも揺らぐ。後押しするかのようにエスペランサの瞳が自信に溢れているのを見れば、試してみるのも悪くないかもしれないと思う。何より船乗りたちに無理をさせなくて済む。交渉は危険な行為であることに変わりはないが、借りられる力は借りるべきだと旅を通して学んでもいた。
「分かった」と頷いていた。
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