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対ゾルギア戦
夜明けの空に陽の明るさはなかった。低く垂れ込めた厚い雲に覆われ、海上は白波が立っている。
戦艦、巡洋艦と駆逐艦合わせて十五隻を引き連れたエルドラド号は、マール人による占拠を他艦に知られることなく航行を続けていた。もうじきクレシア海域に入る。任務地であるポートベイ連邦が見え出す頃だ。
ブルームアはマール人司厨員のリグに人数分のコーヒーを持ってこさせた。熱い飲み物で気分を一新するためである。立ちっぱなしの疲れをほぐす効果も期待出来るが、彼自身が好物の飲み物を欲していたことが大きい。
飲み終えた頃に、見張り役から見えたと報告があがった。望む陸ではなく、船団である。
ブルームアも艦橋から望遠鏡を覗いて確認する。旗まで見えなくとも船影で分かる。ポートベイ艦隊だ。彼らの出迎えは予想通りである。問題はその規模だ。
指先ほどの船型に目を凝らす。数はゾルギアより多いが、帆走設備を備えた汽帆船も混じり、個々の戦力ではゾルギアの方が勝っている。見える以上の艦が展開したとしても、ゾルギア国も後方に第二戦隊が控えており、優勢に変わりはない。
勝利を思い描く一方で、相手国への憂いも湧く。この戦いの目的は国土の広いポートベイに埋まる豊富な地下資源の奪取だ。鉱石に原油、それらを欲しいだけ手に入れるために侵略し、無条件降伏させる。ゾルギア国はこの任務を達成するだけの強力な軍事力を持っている。それだけではない。ポートベイが敗北したら、その地に住む人々はゾルギア国の支配下に置かれることになる。
資源も自由も奪われる状況は、かつてマール人の故郷だったエルソル共和国を連想させ、胸が締め付けられるかのようだ。
落ち着け、慌てるな。
ブルームアは自分に言い聞かせた。敵艦隊の出現を後続のゾルギア艦が確認していようとも、エルドラド号が指示を出すまでは戦闘配置を保ったまま待機している。艦橋の後方に設置されている通信装置はバトムが目を光らせており、通信士でさえ触れないでいる。
コーヒーで腹を温めたためか、緊迫感が緩んでいる者がいた。連絡員の一人、トリスである。彼は好奇心に満ちた声で質問を投げかけた。
「士官たちを捕虜にしてどうなさるおつもりですか。なにか要求を?」
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