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事が問題なく運んでいるのを感じつつ、ブルームアは隅で待機している通信士に「ようやく君の出番だ」と声をかけ、命じた。
「全艦に連絡せよ。エルドラド号は艦長のブルームア・アトバンとマール人の支配下にある。ゾルギア人に怪我はないが、捕虜となっている。戦闘配置を解除し、降伏せよ、と」
通信士が内容に口を挟むことはない。返事をして無線装置の前に立ち、言われた通りに無線電信を送り始める。それを横目で見つつ、トリスが問いかけた。
「降伏……もし拒否されたらどうなさるのですか?」
問わずとも答えを知っているはずであったが、覚悟を示すためにブルームアは声に出した。
「我々はポートベイのために戦う。彼らを侵略から救うのだ」
「艦長は敵方と内通していたのですか?」
平時であれば処罰を受けるに値する質問ではあったが、咎めることなく淡々と答える。
「内通ではない。ゾルギア人の節度は驕りで失われかけている。侵略が間違いであることを行動で示す」
「しかし、理解されるとは思えません」
「理解されないとためらっていたら、何も伝えられない。だから行動するのだ」
各艦から届いた降伏拒否の連絡を、通信士が次々と読み上げる。想定内の返事を聞くブルームアの表情に、翳りはない。報告が一区切りついたのを見計らって言い放つ。
「進路を東南東に変更。これより作戦実行に移る。各所に連絡」
「同胞を攻撃するなんて、自分は反対です」
トリスが伝声管から離れる。姿勢を正して立ち、全身で強い拒絶を示した。
その彼に対して、ブルームアはもう寛容さを示さなかった。厳しい上官の顔となり、威圧的に言う。
「命令だ、従え」
「いいえ、出来ません」
こういう事態が起こることも、ブルームアは予測していた。
他の連絡員たちが固唾を飲んで成り行きを見守る中、トリスの腕を掴んで「出ろ」と艦橋の外へ押し出した。
階段下にはマール人の見張り番が立っている。艦橋内の話し声が届く場所だ。目を合わせると、状況を承知していることを示すために、彼は首肯した。
トリスを階段下まで歩かせると、未だかつて見せたことのないような険しい顔つきで、ブルームアは腰から拳銃を取り出した。
「一人が命令拒否を始めると、次々と賛同者が現れる。それを防ぐためには容赦しない姿勢を見せねばならない」
厳かに言い放つと、銃の引き金を引いた。
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