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ブルームアが艦橋に戻ると、エルドラド号は煙突から煙を上げて敏速に回頭を始めた。
戦闘前の艦橋はいつでも緊張感に包まれるが、今回は特別だった。ポートベイ艦隊に背を向ける危機感に加えて、銃声が響いたことによる畏怖の念が狭い空間に漂う。その張り詰めた空気は、隣にいる者の呼吸が聞こえてきそうなほどだ。
その静寂を破るように、通信士の声が上がる。
「ブリンガー号から連絡です。本艦に降伏を要求しています」
「降伏はしない。今後ゾルギアからの通信は一切遮断しろ」
通信士が「了解」と返事をする。
向きを変えた先には、艦首を向けたゾルギア艦が扇状に広がっている。
しかし、真の敵は目前の軍事力ではない。間違った認識という、目には見えない存在だ。掴みどころのない敵は、かつてどこにも救いのなかったエルソル共和国の人々が、同じ境遇の人々に伝えることで追い詰められる。そう信じるブルームアに迷いはなかった。
「これより侵略を阻止する、攻撃開始!」
命令が砲塔へ伝わるや否や、砲撃音と振動が艦橋にもやってくる。
高い火力を誇る主砲が、造り出した国に牙を剥く。射程距離が活きてくる。
――ドォォン!
一番近くの艦上から爆発が起こり、黒煙が上がる。
「やった! ゾルギアどもをぶちのめせ!」
リグが子供のようにはしゃぎ、連絡員たちの注目を集めた。ブルームアは彼を横目で見ながら冷静に教えた。
「狙いは艦砲だ。特に主砲は一基でも多く潰さねばならない。徹底的に攻撃力を削ぐ。侵攻は諦めざるを得ないと言うまでに」
海の揺れの中で行われる砲撃は、通常のゾルギア艦であれば一割命中すれば良い方だ。そのため、エルドラド号は砲塔基盤の安定を重視した造りになっている。工夫は砲員にもあった。人選に融通が利いたブルームアは、全力を尽くせるようにと、マール人の砲員を全てエルドラド号に乗艦させてもいた。
ここへ着くまでの猛特訓の甲斐もあって、砲撃の成功率は驚異的であった。完璧な仰角で発射された砲弾が派手な音をたてて、目標の砲塔を爆破させる。
ゾルギア勢も黙ってはいない。
仲間が捕虜となっていることを知りながらもためらうことなく反撃をしてくる。直近の海面に砲弾が飛び込み、跳ね上がる水しぶきが艦上に降りかかる。
数を重ねるにつれて艦が煙に包まれ、視界が鈍る。目標は撃った瞬間のオレンジ色の閃光で位置を判じられるだけだ。
次第に被弾が増え、そのたびに大きく揺れる。しかし、強力な装甲により損傷は艦殻のみに留まり、内部への影響は殆どない。
それに気付いたゾルギア艦隊が、攻撃に勢いが増すエルドラド号を阻むように、艦間距離を縮め始めた。
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