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◇
玲の口からヒュルルと息がもれるのと同時に、間近でのぞき込んだ玲の瞳から急速に光が失われる。
壊れた玲には私の言葉は届いていないようだった。
ここのところずっと、半分眠ったようだった。ようやく頭がすっきりしてきたと思ったら、このザマだ。頭は眠っていたが、記憶は残っていた。私の脳は玲が壊れていく姿を克明に記録していた。
隣で眺めていた『それ』を睨みつける。
「さぞ、面白い見世物だったんだろうな?」
1か月ほど前だろうか? こいつが目の前に現れた瞬間、私の意識は混濁した。そこからは、私の記録の通りだろう。胸糞悪い。
『それ』は芝居が終わった後の余韻を響かせ、私に問う。
「今回君は巻き込まれた被害者だし、簡単な望みなら無料で聞いてあげてもいいよ。アフターサービス」
あぁ? どの口が言う。
「取り消しには応じないんだろう?」
「取り消しの対価はどうする? 君は支払うつもりはないだろう?」
哀れな玲。玲は好きだったが、もう壊れてしまった。元に戻らない生きた屍。これは玲が選んだ玲の結末だ。玲は私が私でいることを望んだ。なら、私は玲とは違う道を選ぶ。
「……玲の魂に平穏を」
承った、と一言述べて、『それ』は闇に溶けた。
玲の開きっぱなしのまぶたをそっと閉じると、まぶたの端から一筋、透明な涙がこぼれた。
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