父として、母として

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   この写真が夏那の素敵な思い出になると良いな。 「ほら、昂輝もちゃんと靴を履いて!」  学校の制服を持ってくれば良かった。まさか家族写真を撮ることになるとは。  せめて昂輝はズボンをきっちり履いて、靴紐も結んで! 「写真は夏那だけでいいじゃん」 「ダメ、家族写真も撮るの。おじいちゃんおばあちゃんも一緒よ」  莉緒菜おばちゃんにドレスアップさせて貰った夏那が、同じ商店街の写真スタジオで今、撮影中だ。  この写真スタジオは私と櫂の成人式や、お母ちゃんお父さんの婚礼写真を撮影した思い出のお店だ。  莉緒菜おばちゃんが頼んでくれて、お盆休みだと言うのに快くお店を開けてくれた。 「ほら、行くわよ!」  昂輝を連れて写真スタジオの二階に昇る。お母ちゃんとお父さんももうバッチリ決めていて、櫂もしっかりスーツだ。 「あれ?お父ちゃんそんなスーツ持ってた?」 「父さんのだ」  大阪から持って来てないもんね、良かった着れたんだ。  そしてまだ撮影中のドレスアップの夏那は、童話の世界のようなメルヘンな背景の中でちょっとだけ戸惑ったように笑う。とても可愛いディズニープリンセスだ。 「見ろ昂輝、夏那はやっぱり可愛いな」 「当たり前だ、俺の妹だよ」  お姉ちゃんだって。それはいつ認めるんだ昂輝。 「はい、それでは御家族の皆様もこちらへ」  カメラマンが私達を呼んでくれる。夏那の目線は昂輝だ、右手を伸ばして昂輝を呼ぶ。真ん中に立った夏那が昂輝の左手をギュッと握った。 「おばあ様はお姉ちゃんのお隣で」 おしゃれな椅子が持ち込まれ、お母ちゃんが座る。 その後ろにお父さん、そして櫂と私だ。 「ああ、素敵な御家族ですね。いい写真になりますよ」  カメラマンさんが言ってくれた。  私は精一杯の笑顔でその大きなカメラを見つめた。 98b550c4-b0bc-4cf1-885e-d74b04b7db71
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