それでも前へ

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   2年後のある日、突然櫂から家を引っ越す話をされた。  昂輝と夏那はもうすぐ小学4年生になるという春の頃だ。  櫂が又別の子供を引き取りたいんだけど、さすがにお家が狭いからって。  今度の子供は5才の男の子。櫂は昂輝と夏那にちゃんとお話をしてくれた。  その子はどういう事情か、長い間音信不通だったその家の娘がその子を山奥の実家に置き去りにしたらしい。  その実家にいたのは認知症で酒乱の父親が一人、幼児の子育てなど出来る筈が無い。  その子は育児放棄という名の虐待を受けた子供だ。  外の納屋にあった多頭飼いの犬の小屋の中で、真冬にボロボロの服のまま裸同然で発見された。飼い犬達と一緒に野山を駆け回り、寝食を共にしていたらしいとの事だ。  一体何年その子はそこに放置されていたのか。その犬達がいなければその子はとっくに死んでいた。  その子は一度は病院から児童養護施設に送られたが、まるで動物のように吠えたり暴れたりするので施設の方でも困り果てているのだと言う話だった。 「お前たちはどう思う?」  どうって…夏那は昂輝を見た。 「犬じゃないからちゃんとさせる」  そのあまりに理路整然とした昂輝の返事に櫂が笑う。 「よし、ちゃんとさせよう」  そして翌月に当たる春休みにはお家を引っ越す事に。  今度は大阪府内でもちょっと田舎の方だ。  昂輝と夏那は転校する事になってしまったが、二人を連れて学校の見学に行った櫂が、一学年が20人いないのんびりした学校だと拍子抜けした様子だった。だが子供達の事を考えれば、あの環境もいいかも知れないと。  一応4学年担当の先生にも会って、夏那の事を話したとの事だった。 「それでどうだったの?」  まだ若い男の先生だったが、熱心に話を聞いてくれたとの事。様々な事情を背負った夏那は弟が頼りの大人しい子だが、芯はしっかりした子だと話したと。  先生は次第に友達も出来るようになれば良いですねと言ってくれたと。  ちなみに櫂は自家用車通勤になった。難波にある職場まで毎日1時間だ。  家族の為なら、その位の通勤時間は苦にならないお父ちゃんだった。    
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