プロローグ

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プロローグ

 あの頃の私は、確かに(かご)の中の鳥だった。  狭い世界に閉じ込められ、ただ与えられた(えさ)と水をわずかについばむだけ。  単調(たんちょう)で、退屈(たいくつ)で、特に不満はないけれど、何の希望も無い日々。  冷たくて……冷たくて、冷たくて。  人の温もりをほとんど感じることの無い、氷室(ひむろ)の中のような世界。  けれど、もし鳥籠(とりかご)の戸が開かれていたとしても、私は外に向かって羽ばたくことは無かっただろう。  外の世界が怖かったから? それはたぶん、違う。  きっとあの頃の私は、全てに絶望(ぜつぼう)していたのだと思う。広い世界に飛び出したところで、どうせ(かご)の中の凍えるような世界と何も変わりはしないのだ、と。  私は自分を閉じ込める鳥籠(とりかご)にも、そこから出られない自分自身にも、全てのことに対してあきらめ、投げやりになっていたのだ。  けれど、ヴェロニカと出会って、そんな私のちっぽけな世界は大きく変貌(へんぼう)()げることとなった。  彼女は――ヴェロニカは、ぴたりと閉じた私の世界を容赦(ようしゃ)なく叩きのめし、ずかずかと遠慮(えんりょ)なく中に乗り込んできた。そして私の手首を乱暴(らんぼう)に掴むと、外の世界に引きずり出してしまったのだ。  そして私に空の青さを、吹き抜ける風の奔放(ほんぽう)さを、そして自分の翼で飛び立つ瞬間の、全身が震えたつような感動を教えてくれた。  これは私と彼女の、二人で《世界》を変えてゆく物語。
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