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「ここは……いったいどこなんですか」
「おやおや。私の名前はいいんですか? あれほど興味深々だったのに」
何なんだこいつは。激しくイライラする。こんなおっさんに訊いた俺が馬鹿だった。
「もういいです。俺は勝手に帰り道を探すんで、あなたもどうぞご勝手に。妄想でもなんでもしていてください」
不快感を全面に出して返事した俺は、おっさんに背を向けた。しかし、一歩も踏み出せなかった。
何十人……いや、百人は超えてるかもしれない。年齢も性別もバラバラな人間たちが、こっちに向かって、ゆらゆらと向かってきているのだ。しかも、全員うつむいていて、なんとなく影が薄い。正直言って気味が悪い。
「どうしました? 帰り道を探すのではなかったのですか? もっとも、あなたのおっしゃる『帰り道』の行き着く先がどこだとしても、辿り着くのは不可能だと思いますけどねえ」
振り返っておっさんを見ると、さっきまでのニコニコ顔が消え、無表情になっていた。俺がおっさんに向き直ると、おっさんは表情を崩して口を開いた。
「遠藤」
「え?」
「私の名前です。遠藤。そう呼ばれています。そして、ここは霊界。亡くなった人間たちが集まってくる場所です」
何を馬鹿なことを……と思いはしたが、あの覇気のない大勢の人たちを見てしまった俺は、遠藤の発言を否定する言葉が出てこなかった。
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