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1.遺品
「御主人の遺品をお持ちしました」
夫の部下だったというその人は、そんな意味の分からない言葉を吐きながら、片方しかない腕でそっと何かを差し出した。
眼鏡だ。すっかり歪んでいて所々にひびが入っているが、私にとっては良く見慣れた夫の眼鏡に違いなかった。
「御主人は……少尉殿は、部隊の皆を逃がす為に単身突撃し、そのまま……。ご立派な最期でした」
言いながら、彼は声を忍ばせながら泣き出した。男泣きというやつだ。
――泣きたいのはこっちの方だというのに。
夫が新米の職業軍人として南方へと向かったのは、おおよそ一年前の事だ。
「夫」と言っても、私達の夫婦生活はとても短いものだった。彼の南方行きが決まって、急遽でっち上げられた即席夫婦が私達だ。
それまでは、ただの腐れ縁の幼馴染同士。家が近所で、会う度に口喧嘩ばかりしていたのを「喧嘩するほど仲が良い」と親達に勘違いされ、あれよあれよという間に夫婦に仕立て上げられてしまった。
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