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草庵の戸に向かって声を上げると、応じたのは女の声だった。
「お待ちしておりました」
質素な服に身を包んで出迎えたのは、里佐という名の女性だった。草庵の主とは十五年ほど連れ添っており、控え目な表情ながら姿勢の良さが目を惹く。
「広沢も、柴さんと再会するのを楽しみにしていたようです。谷地頭にいた頃は右腕として頼りにしていたからでしょうね」
「それは私一人ではありませんよ」
謙遜に聞こえたのか、里佐は、まあお上手、と言うような表情を見せた。
(本心なのだがな)
四朗は先に歩き出した里佐の背中に苦笑を向けた。それまでの学びが頼りなげに思えるほど、彼の周りには優秀な人が多く集まった。元々広い人脈を誇る人であったが、御一新以後最大限に活かされた形である。
里佐の呼びかけに返事がある。居間へ通された四朗は、
(老人らしくなった)
目の前の男、広沢安任が名乗る牧老人という号が、ようやく本人に馴染んだと思った。
「久しいな、四朗。アメリカから戻ってきたのだろう。言葉は通じたか?」
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